「10秒以内に九九」に困り果て 吃音~きつおん~リアル(6) 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

 「クリスマスプレゼントはいらない。サンタさんに吃音(きつおん)が治るようにお願いする」。小学2年の男児は家族にこう話したそうです。吃音は幼児期に始まり、多くはつっかえながら話すことが当たり前となっています。にもかかわらず、「治したい」と言う場合は、大半は吃音がない聞き手側に問題があるのです。

 詳しく聞くと、原因は掛け算の九九。男児の学校では「10秒以内に九九を言えないと合格できない」という指導をしていました。「10秒以内に言う」テストに9の段まで9回、合格しなければいけません。

 男児はきちんと覚えているのに、12秒かかれば不合格。どうしても発語に詰まって、何度も不合格になってしまう。悔しさでいっぱいでしたが、母親に相談しても、寝る前に「吃音が治りますように」と、喉をマッサージされるだけの日が続いていました。

 小2の12月、私の「吃音外来」を訪れました。男児の悔しさと困難な気持ちを聞いた私は「変えるのは、学校の九九の教え方。本来の目的は九九を正しく暗記することであって、10秒以内に言うことではない」と本人と親に伝えました。

 学校宛ての診断書にも「吃音児童が掛け算の九九で困っています。時間制限を設けない合理的配慮をお願いします」と書きました。ようやく学校側も本人の困り感に気付き、掛け算の九九の時間制限を設けないようになりました。3学期に再度、受診してもらうと「もう治したいとは思わない。今、困っていることはないよ」。笑顔で言ってくれました。

 小学1年生の足し算・引き算カードを制限時間内に読み上げる指導で困っている児童の話も聞きます。100人に1人もの割合で存在する吃音。その困難を訴える子は少なく、悩みが過小評価されやすい現状があります。当たり前になっている指導で実は困っている子がいないか、目を配ってください。学校で吃音をオープンにできる環境や関係づくりも望まれます。

 (九州大病院医師)

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