生命保険金をペットに残す 信託利用 新サービス 高齢飼い主の不安拭う 制度悪用の懸念も

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

 生命保険信託を利用し、飼い主の死後、保険金をペットの飼育費に充てるサービスを、福岡市の認定NPO法人が始めた。事実上、信託会社を通して死亡保険金をペットに贈与することができ、全国的にも例のない取り組みだ。多くの世帯が動物を家族として一つ屋根の下で暮らす中、「ペット終活」の新たな選択肢として注目を集めそうだ。

 今年8月からサービスを開始したのは、同市東区の認定NPO法人「ピーサポネット」(以下、法人)。生命保険信託を活用した「ラブポチ信託」とはどんな仕組みなのか。

 飼い主(委託者)は生命保険会社と生命保険契約(死亡保険金500万円以上)を、信託会社と信託契約をそれぞれ結ぶ。さらに飼い主の死後にペットを贈与する契約を、法人(受益者)と交わす。

 飼い主が死亡すると、保険金が生命保険会社から信託会社に渡り、信託会社から法人に信託財産として交付される。法人は飼い主の生前の希望に応じて、福岡、佐賀、熊本など7カ所にある提携先の老犬・老猫施設に預けるか、新しい飼い主に譲渡する。施設の場合は、飼育費を法人が毎月払う。譲渡の場合、飼育費は飼い主負担になり、残った保険金は施設で長生きする他のペットの飼育費などに充てる。いずれの場合も、ペットが死んだときは、法人が火葬や供養を行う。

 ペットフード協会の2018年の調査によると、犬猫の飼育頭数は全国で推計1855万2千頭。年代別の飼育率は50~70代は犬10~14・5%、猫は7・5~11・3%と一定数がいる。

 一方で、飼い主の老齢に絡む理由でペットが自治体に持ち込まれるケースは少なくない。福岡県などによると、北九州市と久留米市を除く県内58市町村で、飼い主の死亡、長期入院、施設入所などの理由で引き取った犬猫は、17年度は148頭。飼い主からの引き取りの3割を占めた。新たな飼い主が見つからなければ殺処分されている。

 法人の藤野善孝副理事長(46)は「高齢を理由にペットの飼育をためらう人もいる。預け先が保証されることで、お年寄りが安心して人生の最後までペットと過ごせる」とメリットを強調する。

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 これとは別に、ペットに財産を残す方法として「ペット信託」がある。ペット信託とは、飼い主(委託者)が親族や友人など(受託者)と信託契約を結び、受託者が老犬ホームや動物愛護施設などの預け先に飼育費を支払う仕組みだ。飼い主は受託者を探し、さらに口座を開設してペットが死ぬまでの施設利用費を準備しなければならない。

 猫4匹を飼う福岡県糸島市の女性(49)は、ラブポチ信託の契約を結ぶと決めた。1人暮らしで、猫たちをわが子同然にいとおしむ。「いつ病気になるか分からない」とペット終活を考えたが、身内に頼るのは気が引けるし、数百万円を用意する必要があるペット信託は難しかった。契約では、月約6千円の保険料で保険金は800万円。「猫たちが穏やかな余生を過ごすのが最大の望み。寿命を全うするまで面倒を見てもらえるから安心です」

 他の団体でも、同様の動きが進む。岐阜市のNPO法人「人と動物の共生センター」も、ラブポチ信託と同様のサービス展開を検討している。認定NPO法人の認定を岐阜県に申請中で、許可が下り次第、契約の受け付けを始めるという。

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 13年施行の改正動物愛護管理法は、ペットの「終生飼養」は飼い主の責務と明記。こうしたサービスで助かる人がいる一方、施設や譲渡を当てにして安易に飼う人を増やしかねないとの声がある。飼い主の死後、保険金が飼育のために適切に使われているか、施設や家庭できちんとかわいがられているか、監視する仕組みも十分とはいえない。

 団体を受益者に設定できるサービスがある信託会社・信託銀行は、いずれも団体を公益社団法人や社会福祉法人、認定NPO法人などに限定している。ペット終活事業に乗り出そうとする団体による認定申請が加速する可能性がある。

 北九州市でペット終活の相談を受ける「協同組合 親愛トラスト」代表の行政書士、松尾陽子さんは「保険金を目当てに参入し、信託の仕組みを悪用する団体が今後出てくる懸念がある。契約を結ぶときは、経営状況、保護や飼育の実績、信頼度を見極めてほしい」と忠告する。九州産業大専任講師の根本篤司さん(保険論)は「サービスを利用する場合、生命保険の契約者が支払う保険料や、信託会社・信託銀行に対する報酬が負担できる金額かどうかを慎重に検討するべきだ」としている。

 (国崎万智)

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