「暴力団」は誰のこと? 岩本 誠也

西日本新聞 オピニオン面 岩本 誠也

 NHKの取材手法は暴力団と同じだったのか。報道に携わる者として、日本郵政の鈴木康雄上級副社長の発言が気になっている。

 かんぽ生命保険の不正営業問題を昨年4月にいち早く報道番組で取り上げたNHK。続編の放送に向けて番組の公式ツイッターで情報提供を呼び掛けた。この動画に「押し売り」「詐欺まがい」などとあったのが日本郵政は気に入らなかったのだろう。

 「内容が一方的で事実誤認がある」として動画の削除を求めたら、担当者から、取材を受けてくれるなら消すと言われたという。

 「取材を受けたら動画を消すなんて、そんなこと聞けるか。それじゃ暴力団と一緒でしょ。殴っておいて、これ以上殴ってほしくないならもうやめてやる、俺の言うことを聞けって。ばかじゃないの」

 鈴木氏は今月初め、かんぽ不正問題で野党のヒアリングに応じた後、取材陣にこうまくし立てたそうだ。

 鈴木氏はNHKの監督官庁である総務省の事務方トップの事務次官経験者。動画の削除を巡って頭に血が上った鈴木氏はNHK会長にも抗議し、反応が鈍いと今度は経営委員会にねじ込んだ。

 NHK側はこの発言を否定した。仮に鈴木氏の言う通りとしても、暴力団扱いには無理がある。指摘された不正営業を改めもせず、昔の看板でNHKに圧力を加える方がよっぽど「暴力団」的だ。

 そんな鈴木氏の目には、この人の振る舞いはどう映っただろう。米国第一主義を掲げるトランプ米大統領だ。

 日米などが苦労してまとめた環太平洋連携協定(TPP)から一方的に離脱した。それで米国産農産物が不利になると、日本に輸入車や自動車部品への高関税や数量規制をちらつかせ、TPP並みの市場開放を迫ってきた。拳を振り上げておいて「話し合おう」なんて暴力団顔負けだ。

 わずか5カ月の交渉でまとまった日米貿易協定。安倍晋三首相は双方に利益のある「ウィンウィンの結果」と言い繕うが、大統領選再選を目指すトランプ氏に押し切られたのは明らか。最近訪米したシンクタンクの研究者は現地の専門家から「日本がなぜ合意したのか分からない」と言われたそうだ。

 もし相手が暴力団なら、無理難題には決して応じてはいけない。要求が繰り返されるだけだ。

 「解決を急がない」「毅然(きぜん)とした態度で要求を断る」。大阪府暴力追放推進センターの暴力団対応10則にある。

 政府はしっかり学習してほしい。 (論説委員)

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