【日韓考】国益損なう対立に終止符を

西日本新聞 総合面 池田 郷

 【ソウル池田郷】元徴用工訴訟の韓国最高裁判決から1年。3月にソウル支局長として着任し、文在寅政権下の韓国政治や社会を取材する私は、第2次安倍晋三政権を2012年の発足時から約1年間、首相官邸キャップとして追った。二つの政権が1965年の国交正常化以降、最悪とされる対立関係に陥った現在を取材しながら、感じることがある。もはや互いに本来の目的を見失ってはいないかということだ。

 象徴的だったのは日本の対韓輸出管理の強化と、韓国による日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)破棄決定だ。

 日本は7月、輸出管理強化を打ち出した。安倍政権としては、元徴用工問題を放置するかのように動きの鈍い韓国政府をけん制するつもりだったのだろう。だが韓国では世論の怒りが沸騰した。日本製品の不買運動や日本への渡航自粛がうねりとなって広がった。結果、日本製品の売り上げや訪日韓国人は大幅に減少した。副作用は大きかった。

 韓国は8月、GSOMIAの破棄を決めた。だがこの決定で文政権は自縄自縛に陥った。米国のポンペオ国務長官や国防総省は「失望」「強い懸念」を表明。米国は現在も「水面下で韓国にGSOMIA破棄の撤回を強く迫っている」(韓国外交筋)とされる。

 同盟国の予想外の反発に文政権も柔軟姿勢をにじませざるを得ない。だが無条件の撤回は世論の反発を招く。文政権は日本が輸出管理強化を元に戻すことと引き換えにしたい思惑だが、日本は「受け入れられない」(外交筋)と突き放す。

 保守系の安倍政権と革新系の文政権。基本理念は異なるが、よく見ると相似る部分が多い。政策の決定権は日本は首相官邸に、韓国は青瓦台(大統領官邸)に集中している。外務、防衛などの実務者間で交渉を重ねて現実的な打開策を探っても、世論に敏感な首相官邸や青瓦台にはともに譲歩を許さない空気が色濃い。

 トランプ米政権の誕生を機に世界に広がる「自国第一主義」が日韓関係に色濃く影響しているのは間違いないだろう。片や「戦後レジームからの脱却」を目指し、片や「積弊清算」を掲げる。両政権とも民族主義的な支持層を背景とし、内政の事情を優先して歩み寄る姿勢は容易に見せられない。

 この1年、溝を深め合ってきた両国の政権は何を得ただろう。確かに日本にとって、元徴用工を巡る韓国最高裁判決は日韓関係の土台を揺るがし、看過できない。だがそれも輸出管理強化、韓国側の対日感情の悪化、GSOMIA破棄決定と問題が積み重なるにつれ、韓国側からは「論点の一つ」としてかすみがちだ。

 一方、韓国側は最高裁判決が重視した「植民地支配の不法性」を日本側に認めさせるのが本来の意図だろう。だが文政権がその最も重要とするテーマに正面から向き合おうとする姿勢は見えない。

 不毛な対立を脱し、すれ違う主張の論点整理から仕切り直す。二つの政権の覚悟を問いたい。

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