元徴用工、埋まらぬ溝 賠償判決1年 日本…請求権協定で解決済み 韓国…司法判断に介入できず

西日本新聞 総合面 塩入 雄一郎

 韓国最高裁が日本企業に元徴用工への賠償を命じた初の確定判決から30日で1年がたった。徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みだとして反発する日本政府に対し、韓国政府は司法判断に介入できないとの立場で、溝は埋まっていない。既に被告の日本企業が韓国内に保有する株式などの資産は差し押さえられ、売却されれば対立は修復困難なレベルに突入する恐れもあるが、最近は危機回避に向けた対話ムードも出てきている。

 「請求権協定は国際条約だ。判決により国際法違反の状態をつくり出したのは韓国側で、自らの責任で違反状態を是正することを強く求めたい」。菅義偉官房長官は30日の記者会見で、改めて日本政府の立場を強調した。

 請求権協定は、日本が韓国に経済協力資金を提供するのと同時に、両国と国民の間の請求権が「完全かつ最終的に解決された」と明記。日韓両政府はこれまで、「解決済み」の請求権には、日本統治下の朝鮮半島から動員された労働者への賠償が含まれると解釈してきた。

 ところが日本企業に賠償を命じた2018年の韓国最高裁判決は、元徴用工問題を協定の枠外と判断した。過去の日本の植民地支配を「不法」とした上で、協定はそれを前提にしていないため、不法行為による被害の慰謝料請求権は含まれていないと結論付けた。

 このため日本政府は今年1月には協定に基づく政府間協議、5月には第三国を含めた仲裁委員会の開催を韓国政府に要請した。だが文在寅(ムンジェイン)大統領は「三権分立で政府は介入できない」として応じず、協定の解釈を巡る協議のテーブルに着くのを避けている。

 どちらに理があるのか。日本政府は「三権分立や司法権の独立は国際法上の義務違反を正当化する理由にならない」と主張。韓国で日本企業の資産が売却された場合、国際司法裁判所(ICJ)への提訴も視野に入れる。ただ、明治学院大の阿部浩己教授(国際法)は「近年の国際法は国家中心から人権中心に変わりつつある。必ずしも日本に有利な判断をするとは限らない」とみる。

 一方で、12月に中国で行われる日中韓首脳会談に合わせ、安倍晋三首相と文氏が首脳会談に踏み切るとの見方も強まってきた。対立が貿易や安全保障、民間交流にも波及し、双方で国民感情の悪化や経済的打撃が深刻化しているためだ。両政権とも妥協を拒みつつ、これ以上の関係悪化で内外にマイナスイメージを広げたくない事情がある。

 早ければ年内にも可能になるとみられた日本企業の資産売却も、韓国裁判所の手続きが遅れ、来年以降に大幅にずれ込むとの観測がある。徴用工問題での歩み寄りは見通せないが、首脳同士の対話が実現し、互いに報復の連鎖を断つ「一時休戦」のきっかけになるか注目される。 (塩入雄一郎)

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