給仕にでもして働いてもらおう-…

西日本新聞 オピニオン面

 給仕にでもして働いてもらおう-。隣室の養父母の声に少年は傷つき、将来がひどく不安になった

▼夏目漱石の生涯を描いた伊集院静さんの小説「ミチクサ先生」。日本経済新聞に連載中の一場面だ。夏目家の末子に生まれた少年は、幼い頃に養子に出される。学校の成績は抜群だったが、養家も豊かではなく、冒頭の会話に

▼少年は能力を認めてくれた兄の支援で大学に進むことができた。家庭の「身の丈」に合わせて進学を諦めていたら、文学史に残る数々の名作は世に出なかったかもしれない

▼漱石の時代は一部に限られていた大学進学だが、今は2人に1人が大学に行く時代。それなのに、家庭の経済状況で進学が不利になりかねない制度への疑念に対し、「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」と。大学入試に英語の民間試験を使う新制度を巡る萩生田光一文部科学相の発言である

▼高額の民間試験を何度も受けるのは家計の負担となる。受験会場が少ない地域もある。格差や不公平を容認し、人を見下したかのような言葉が、教育の機会均等に取り組む最高責任者の口から飛び出すとは。撤回、謝罪したが、受験生や家族を傷つけ、不安を抱かせたことだろう

▼政界には世襲議員があふれ、高級官僚の登竜門である難関大の合格者は裕福な家庭の子が多いという。問題の多い新制度は、身の丈など意識せずに済んだ人たちが考えたのではないか。

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