笑いの起きる現場に立ち会う 主演映画を監督 ミュージカルを演出 松尾スズキさん

西日本新聞 小川 祥平

 人気劇団「大人計画」主宰の松尾スズキさんが意欲的な活動を続けています。劇団旗揚げ30周年を記念して今年はさまざまなイベントを敢行。監督、主演の映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」が公開されているほか、来年1月にはミュージカル「キレイ-神様と待ち合わせした女-」を作・演出し、博多座(福岡市)で上演します。

 -映画の構想は5年ほど前からあったそうですね。

 ★松尾 どうせなら主役のものを一本撮りたいと思った。コメディーでドタバタ要素もあるから体が動く限界もある。早いうちにやりたかった。

 -妻の浮気を疑い、復讐(ふくしゅう)するために108人の女を抱こうとする主人公ですが…。

 ★松尾 自分が監督、主役をやるなら、最もやりたくないことをやってやろうと、それで不謹慎を絵に描いたようなことになったんです。「松尾ってばかだな」と思っていただければ。笑いにもつながりますし。

 -監督、主演のこだわりはあるのですか。

 ★松尾 僕の思う喜劇人は、監督、主役の映画を残しているイメージなんです。一番近いのはメル・ブルックス。偉ぶらないで、自分のゲスさもさらす。自分の笑いを体現できるのは自分という思いもあった。ただ、尋常じゃないくらい大変でしたよ。

 -重い話もありつつ、笑いもちりばめられている。そこにぬれ場。恥ずかしいものですか。

 ★松尾 シリアスと不謹慎を同価値なものとして扱うのは僕の作風なので。ぬれ場はいきなりテンションマックスなので恥ずかしくはない。スポーティーですよね。演じ終わったらすぐにカメラチェック。一応ガウンは羽織らせてもらいましたけど。

 -妻役は中山美穂さんです。

 ★松尾 メジャーな人がいいなと思っていたんです。共通の友達から「中山さんが『松尾さんの映画、面白そうだ』って言っていた」って聞いたんで、ダメもとで頼みました。現場では物静かな感じ。大女優というオーラは出さず、言われたことにもハイとやってくれました。

 -完成していかがですか。

 ★松尾 やりたいことがかなりやれました。撮影がハードすぎるあまり、思うように走れてなかったりしたけれど、それもキャラクターの一つかなって今は思っています。

 -今年は大人計画のイベントや舞台で福岡に何度も来られました。来年も福岡で「キレイ」の上演です。

 ★松尾 古里でこの作品をやるのは初めて。どんな風に見られるのかドキドキしています。

 -初演は2000年。戦争や監禁など重いテーマもはらんでいます。

 ★松尾 初めてシアターコクーンという大きい劇場でやるということで、何かスペクタクルな演出がしたかった。それは戦争だろうと。その頃、ユーゴスラビア紛争が起こった時期だったのも影響していると思います。

 -初ミュージカルでもありました。

 ★松尾 最初はミュージカルをぶっ壊してやろうと思っていました。僕はタモリさん派なんです。急に歌い出すなんて気持ち悪い、みたいなタモリさんと同じ感覚をミュージカルに対して持っていた。でも再演を重ねるごとに、この世界の深さも知った。輸入物のミュージカルではないアプローチで進化させたし、生演奏、楽器を増やしたりと厚みも出てきたと思います。

 -主演は乃木坂46の生田絵梨花さん。起用の理由は?

 ★松尾 「レ・ミゼラブル」に出演していたのを見て、歌声も素晴らしいし、美しかったから。

 -これまで奥菜恵さん、鈴木蘭々さん、多部未華子さんが主演してきました。共通点はありますか。

 ★松尾 何となくだけど、うそのない芝居をする。本人もそんなにうそつけないみたいなイメージがあって起用してるんですかね。記憶を失った少女の話。生田さんには、人間というものから飾りを取っ払った演技を要求すると思います。

 -古里での公演、意識します?

 ★松尾 うちの俳優も博多公演だとちょっとテンションが上がる。小規模のお芝居しか九州には持って来ていないので、これくらい派手な演出もできるということを感じてほしい。

 -映画と舞台って違うものですか。

 ★松尾 映画はワンカットずつ完成させ、舞台はワンシーンずつ各席にちぎって投げている感じ。僕は笑いがどう起きているか気になるんですね。映画はお客さんが入った劇場で1回は見るし、舞台だと間近で笑い声を浴びられる。笑いが起きる現場に立ち会うことは自分が本当にやりたいことの一つ。それは小説とかでは味わえないですね。 (文と写真・小川祥平)

 ▼まつお・すずき 1962年、北九州市生まれ。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、俳優、小説家、映画監督など多彩に活躍。現在、監督、主演、脚本を務めた映画「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(R18指定)が公開中。舞台「キレイ-神様と待ち合わせした女-」を来年1月13~19日、福岡市博多区の博多座=092(263)5858=で上演。チケットはA席1万3000円など。

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