また「損切り」でしのぐのか

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 株の世界に「損切り」という言葉がある。

 値下がりして損を抱えている株を売却し、その時点で損失を確定させることを言う。「いつか上がる」と持ち続けて損を拡大させるより「回復は見込めない」と見切りを付けた方がいい、という考え方である。

 現在の安倍晋三政権がまれに見る長期安定政権となっている理由の一つは、この「損切り」のうまさにある-と私は考えている。

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 安倍政権の閣僚が相次いで2人辞任した。菅原一秀経済産業相と河井克行法相である。両氏とも公職選挙法がらみの疑惑を週刊誌に報じられた。2012年の第2次安倍政権発足以降、辞任閣僚は10人に上る(1人は体調不良が理由)。

 これまでにも選挙区でうちわを配った法相や「復興より議員が大事」と発言した五輪相などが辞任した。計算では1年に1人以上のペースで閣僚が不祥事で辞任していることになる。

 ただ、いずれも辞任直後は政権支持率がやや下がるものの、すぐに回復する-の繰り返しで、政権にとって大きな痛手にはなっていない点が注目される。

 その一因は対応の素早さだ。政治記者の感覚からすれば「もう少し粘るのでは」と思っているうちに、辞任の名目でさっさと事実上更迭する。今回の河井法相は、疑惑を報じた週刊誌の発売日の朝にもう辞任だ。切るのが早ければ早いほど、不祥事が世間をにぎわす時間も短くて済む。

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 株で「損切り」が重要な最大の理由は、ずるずると損失を膨らませるのを避けるためだ。安倍政権の不祥事閣僚対応の速さは、まさにこの「損切り」である。

 「損切り」には別の利点もある。損はするが、少なくとも自分で事態をコントロールしていることだ。情勢に振り回されるより、はるかにマシなのだ。

 ただ、この「損切り」という手法、初心者には難しい。「そもそもその株を買った自分の判断ミスを認める」ことがなかなかできないのだ。閣僚に当てはめれば「任命ミス」を認めるのがいやで、辞任させたくないという心理が働く。

 実は安倍首相は第1次政権時代、「損切り」できずに大失敗している。資金管理団体の光熱水費疑惑が持ち上がった松岡利勝農相を辞任させるタイミングを失い、進退窮まった松岡氏は自殺した。盟友を失った安倍首相の心の傷は大きかったはずだ。首相は間違いなく、この失敗に学んでいる。

 足を引っ張る閣僚を容赦なく切ることで、党内における首相の威信を高めるという効果も生んでいる。

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 今回の連続辞任で政権は一定の打撃を受けるだろうが、安倍首相がお決まりの「任命責任を痛感」の言葉を繰り返すうちに、いつも通り支持率が回復する可能性は高い。安倍政権の安定ぶりが、国民の「忘れっぽさ」や「慣れ」に支えられていることも事実だ。

 しかし、有権者が「閣僚1人辞任がマイナス10点と計算すれば…もうマイナス何点?」と考え、不祥事閣僚を生み続ける政権の構造的問題に目を向ければ「安定政権」を巡る状況も変わってくるかもしれない。

 株の世界には、「損切り」を繰り返して結局はじり貧に陥る「損切り貧乏」という言葉もあるらしい。
 (特別論説委員)

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