全身が腫れる難病へ理解を 遺伝性血管性浮腫(HAE) 医療現場 認知度低く 推計患者2600人、診断まで20年も

西日本新聞 医療面 井上 真由美

 突然全身が腫れる難病「遺伝性血管性浮腫(HAE)」。内臓が腫れると激しい腹痛に襲われ、喉が腫れれば呼吸困難に陥って命にかかわる。患者は全国に推計2600人。ただ、医師の認知度が低く、診断されるまで20年近くかかる人もいるという。患者たちは「医療関係者の知識と理解を深めて」と訴える。

 発作時に病院に駆け込んでも適切な治療をしてもらえない。旅行先の医療機関に薬を置いていない恐れもあって遠出できない…。14歳でHAEと診断された福岡市南区の理学療法士今村幸恵さん(44)は、常に不安を抱えて暮らす。

 発症は千葉県に住んでいた小学4年。一晩中嘔吐(おうと)が続いて入院。原因は分からず、絶食して点滴を受けるしかなかった。それまで学校を休むことはほとんどなかったが、月1回は激しい嘔吐と腹痛で10日間ほどの入院を繰り返すようになった。生理が始まると発作の頻度は2~3週間に1回に増えた。

 1回の発作で2キロは痩せてしまうため、体重は30キロ台。体育や運動会は参加できず、家族旅行も行けなかった。大学病院で検査を尽くしても診断は付かなかった。

 米国の論文を調べた医師のおかげで、中学2年で「HAE」と診断。「やっと分かった。患者は自分だけじゃない」と安心したものの、治療法は確立しておらず、症状も生活も変わらなかった。専門学校生だった20歳の時、喉が腫れて気道がふさがり、声も発せず、息もできなくなった。何とか母親に伝えて救急搬送され、一命を取り留めた。

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 HAEは、炎症を起こした血管から水分が漏れ出て、手足やまぶた、唇、消化管など体のあらゆる場所が腫れる。発作は突然起こり、数日から長くて1週間程度で治まるが、場所によっては命が脅かされる。

 HAEに詳しい堀内孝彦九州大病院別府病院長(免疫・血液・代謝内科)によると、原因は「C1インヒビター」というタンパク質が欠損する遺伝子異常とされ、親子間で遺伝する例が多い。発症率は5万人に1人。日本には2600人いると推計されるが、診断されて治療を受けている患者は450人程度。

 1990年にC1インヒビターを補充する製剤が承認され、2018年11月には自己注射も可能な別の治療薬も販売開始。こうした薬を使えば症状をコントロールできるようになった。国に難病指定され、医療費助成も受けられる。

 ところが、医師の認知度が低く、HAEと診断されるまで平均約14年。さらに、治療薬は10万~30万円と高価なため、常備していない病院も多く、救急搬送された患者がすぐに治療を受けられないといった現実もある。

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 今村さんは結婚を機に、10年前に福岡市に転居。当時、九大病院(同市)にいた堀内院長の診察を受けて生活が変わった。自分なりに発作の予兆を察知し、治療薬を早めに投与することで症状を軽く抑えるなど一定の対処が可能になった。自宅近くの救急病院にも薬を常備してもらえるようになった。

 それでも、仕事が立て込んだり、暑さが続いたりすると症状は悪化し、週に何回も通院が必要になる。フルタイムの勤務は難しく、出産も諦めたという。

 「病名が分からず苦しんでいる人や、分かっても適切な治療を受けられていない人もいるはず。経験を役立てたい」。会員制交流サイト(SNS)に「遺伝性血管性浮腫サポートネット」を立ち上げ、自らの症状や治療内容を具体的に発信し、相談にも応じている。「地域や医師によって治療に格差がある。特に救急医療に携わる人には病気について知ってほしい」

 堀内院長は「診断さえ付けば、今は薬でコントロールできる。疑いがあれば、内科や皮膚科、総合診療科などに相談してほしい」と呼び掛けている。
 (井上真由美)

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