ハンセン病補償 「差別の連鎖」絶つ啓発を

西日本新聞 オピニオン面

 ハンセン病患者らを施設に隔離する政策はおよそ90年にも及んだ。その間、日本社会にはびこった偏見と差別は深刻という言葉では足るまい。根絶には相応の対策と努力が必要である。政府と国会をはじめ全ての公的機関が幅広い被害者の人権の回復に取り組み、私たち国民一人一人も意識変革を図っていくことが求められる。

 患者本人たちだけでなく、その家族への差別を初めて認定した6月の熊本地裁判決(確定)を受け、家族補償のための法案骨子を超党派の国会議員グループがまとめた。法案は今国会で成立する見通しである。

 親と子、配偶者には180万円、きょうだいや同居歴のある孫やおい、ひ孫らに130万円を支払う内容だ。

 地域で「未感染児童」などと呼ばれ学校への就学反対運動が起きたり、職場への就労拒否などを受けたりした家族の被害は枚挙にいとまがない。法案骨子はそうした実態を直視した。

 法案の前文は「国会」と「政府」を主語にして、家族への反省とおわびを明記した。背景には、今春成立した旧優生保護法による強制不妊手術の被害者救済法で、反省とおわびの主体を「われわれ」とぼかして批判を浴びた経緯もあるだろう。

 それでも、救済対象を広げた上で、らい予防法の前身となる法律が制定された1907年から、予防法が廃止された96年までの立法府と行政府の責任を明確にしたとは言える。遅すぎたとはいえ、評価したい。

 ただ原告団は「この金額であがなえると合点する者は誰もいないと思う」とも語った。当然であり、重く受け止めたい。

 ハンセン病は極めて感染力が弱く、短期で完治する。政府や自治体はパンフレットを作るなどして啓発を進めてきた。

 ところが福岡県では2013年、ハンセン病を授業で知った小学生が「うつらないようマスクをする」などと書いた感想文を、悪意なく元患者らへ送る事案があった。授業の担当は人権問題に熱心な教諭だったが、教え方が不十分だったという。啓発の内実が問われている。

 法案骨子がまとまったことを受け、加藤勝信厚生労働相は「家族への補償を早期に実施し、偏見、差別の解消に全力で取り組む」と述べた。補償対象は2万~3万人と見込まれる。新たな差別におびえ、声を上げられない人もいるだろう。啓発を強め、何としても救済したい。

 同時にハンセン病問題基本法も改正され、家族の被害を明記する。元患者の名誉回復や、良好な生活環境の確保を目的に09年施行された法律だ。差別の連鎖を断ち切る契機としたい。

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