チェンカーン(タイ) メコン川に沈む夕日を見に行く

西日本新聞 夕刊

 タイに秘境と呼ばれる場所はいくつもある。手つかずの自然が残る離島、滝や洞窟のある山峡…。東北部ルーイ県のチェンカーンもその一つ。バンコクから北へ約600キロ、車で行けば8時間以上かかる。ラオスとの国境に接する小さな町だ。旅人を引きつけてやまない辺境の町を訪ねた。

 ビールがうまい。目の前にはメコン川。川岸に並ぶレストランから夕日を眺める。チェンカーンはメコン川のほとりの静かな町。大河に沈む夕日をのんびり眺めるにはもってこいの場所だと思う。

 それにしても、いい時代になった。朝に福岡を出て、夕方にはチェンカーンでビールを飲んでいる。以前は2日がかりでたどり着く地だったが、タイの格安航空会社(LCC)が福岡空港に乗り入れるようになり、一気に近くなった。LCC各社はタイ国内線との乗り継ぎの良いバンコク・ドンムアン空港を発着するからだ。

 私の場合は、午前8時25分福岡発のタイライオンエアに乗り、ドンムアン空港でノックエアの国内線に乗り換えて、午後3時にルーイ空港に着いた。チェンカーンへはここから北へ約50キロ。トラックの荷台に座席を着けた「ソンテウ」を乗り継いで2時間弱(運賃計45バーツ=約160円)で行くことができるが、夕日をじっくり楽しみたいので、50分程度で着くタクシー(700バーツ)を選んだ。

 宿のゲストハウスに到着すると、荷物を放り込んですぐに外に出る。宿の裏はもうメコン川。川沿いの遊歩道をゆらゆらと歩く。目についたレストランに入ってテラス席に座る。

 川沿いの家々が次第に赤く染まる。観光船のシルエットが逆光に浮かび上がる。太陽の位置が低くなると、メコン川に“光の道”がすーっと伸びた。

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 チェンカーンは町歩きが楽しい。川沿いのチャイコーン通りには古い木造家屋が立ち並ぶ。チーク材を使ったどっしりとした家もあり、ゲストハウスやカフェになっている。夕方からは雑貨や食べ物の露店が出る。車が少ないのでゆっくり歩くことができる。アクセサリーの露店には帰宅途中の女子高校生たちが集まっていた。

 この町を舞台にしたタイ映画「チェンカーン・ストーリー」が公開された2014年ごろから、町を訪れる若者が増えたという。夕日を背景に盛んに写真を撮っていた女性たちは「バンコクから来た」と言っていた。高層ビルがひしめくバンコクから消えてしまった穏やかさがここにはある。

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 翌朝5時半に起きる。お目当ては、日の出とともに托鉢(たくはつ)する僧たちへのタンブン(布施)だ。通りに座って待っていると、僧たちがはだしで歩いてきた。彼らが抱え持つ鉢にもち米やお菓子を入れて祈る。僧の一人に、どこから来た?と英語で聞かれた。お経以外は言葉を発してはいけないはずだが、細かいことは気にしないのがタイらしい。

 チェンカーンでは、このほか、自転車を借りて少数民族の村やウサギだらけの寺を訪ねたり、遊覧船に乗って景勝地を巡ったりして楽しめる。11~12月には雲海を見ることもできる。

 私はメコン川沿いを走るバスに乗って、ラオスの首都ビエンチャンにつながるタイ側の国境の町、ノンカイへ行く予定だったが、果たせなかった。「途中まで車で連れて行くよ」と言っていた宿のおかみさんが朝になって、「やっぱり行けない」と言いだし…。思った通りにならないのも旅。メコンの夕日が見たくなったらまた来よう。 (野中彰久)

 ●メモ

 福岡からバンコクへは1日2~3便。所要時間は約6時間。このうち、格安航空会社(LCC)のタイライオン航空とタイ・エアアジアXが、バンコクのドンムアン空港を発着する。ドンムアン空港からルーイ空港へは1日4便、1時間20分程度のフライト。バンコクとチェンカーンを結ぶバスもある。所要時間は9時間以上。

 ●寄り道=タイ経済の中枢握ってきた 華人の「本頭公廟」

 タイを旅すると必ず寄る場所がある。それは華人廟(びょう)。中国にルーツを持つ人々である華人のほこらで、至るところにある。これがおもしろいのは、町の成り立ちが分かるから。私のタイ旅行のバイブル、桑野淳一著「タイ謎解き町めぐり」によると、タイの各都市は19世紀以降、中国系移民によって建設された。彼らは出身地ごとにコミュニティーをつくって廟を建てた。「水尾聖娘廟」なら海南、「天后聖母廟」なら福建と、出身地によって廟の種類が異なる。ここチェンカーンは「本頭公廟」なので潮州(広東)と分かる。潮州系は米穀商や金融業、貿易業などタイ経済の中枢を握ってきた。彼らが、メコン川に面したこの町を交通の要衝として発展させたことを華人廟は伝えている。

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