W杯 敵味方なく満喫 稲田 二郎

西日本新聞 オピニオン面 稲田 二郎

 ラグビーの根本を定めた憲章は品位、情熱、結束、規律、尊重を掲げる。海外通信社の記者に聞いたところ「rule(規則)」ではなく「law(憲章)」を使うことで分かるように他のスポーツとは一線を画し、英国の選手の多くは大学院で修士を取得しているという。かつては上流階級の紳士のスポーツ。取材したニュージーランド(NZ)代表の一人もオフの日は「建築学の本を読む」と答えた。

 ワールドカップ(W杯)日本大会では、そんな思慮深く穏やかな選手たちの心に日本人の「おもてなし」は強く響いた。北九州市の例は象徴的だ。ウェールズの公開練習でスタジアムの市民約1万5千人が試合前に歌われる「ランド・オブ・マイ・ファーザーズ」を合唱、選手たちは拍手でたたえた。この動画は瞬く間に国内外に拡散、感動と共感のうねりは全国に広がった。

 NZが事前キャンプを張った大分県別府市でも、選手のラグビー教室で約3200人が国歌を斉唱。感動した選手らは胸をぐっと押さえた。ラグビー界のスーパースターたちは、幼い子にも丁寧に指導し、子どもたちを感激させた。オフには別府の砂湯を体験するなど市民と触れ合い、空港ではサインや記念撮影をやめるようスタッフに言われてもアーロン・スミス選手らは応じ続けた。そうやってチームと地域の絆は深まった。

 旅慣れた外国のファンは日本人の心をつかんだ。気軽に声を掛け、共に声援を送り、ビールを酌み交わす。「君もラグビーをやっていたのか」。私も飲食店でオーストラリア人のおじいさんに声を掛けられた。優勝予想を尋ねると「ジャパン!」と親指を立てた。その笑顔が忘れられない。

 別府市旅館ホテル組合連合会専務理事の堀精治さん(67)は「つたない英語でも、みんなが理解しようとしてくれた」。施設の使い方も清潔で、多くの宿泊関係者が「何回もW杯をやってほしい」と話したほどだ。

 大会が盛り上がった最大の要因が、日本代表の躍進であることは論をまたない。ただ、地方に及んだ選手や海外ファンと地域住民との触れ合いが、盛り上がりを下支えしたのは間違いないだろう。

 スタジアムはお祭り騒ぎだった。敵味方なくラグビーを楽しんでいた。ハーフタイムに定番「スイートキャロライン」を大合唱したのは最高だった。そこに憎しみや差別はみじんも感じられなかった。

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 ▼いなだ・じろう 1971年、福岡県小郡市生まれ。明善高ラグビー部元主将。事件取材を主に東京報道部、社会部などを経て大分総局次長。

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