日米貿易協定 政府説明は信用できるか

西日本新聞 オピニオン面

 政府が公表した日米貿易協定の経済効果分析について「水増し」の疑念が生じている。米国向け輸出の約3割を占める自動車と関連部品への関税は本当に撤廃されるのか。農水産品の日本市場開放を巡る説明にも疑義がある。ともに協定の根幹に関わる部分であり、政府は正面から疑問に答えるべきだ。

 協定の内容について政府は、双方に利益のある「ウィンウィン」(安倍晋三首相)と説明している。経済効果の試算はこれを裏付けるものだ。

 関税引き下げで国内の農水産物生産は年間600億~1100億円減少するものの、経済活動が活性化し、全体で日本の国内総生産(GDP)を約0・8%押し上げ、約28万人の雇用が生まれると結論づけている。間接効果を含めば、押し上げ効果はより大きくなるという。

 ばら色の試算結果だが、額面通りに受け止めるわけにはいかない。交渉で日本が求めた自動車と関連部品の関税撤廃に米国は応じず、結論は先送りになったはずだからだ。

 首相は国会で「撤廃が前提となっている」と答弁したが、協定の付属文書には「関税の撤廃に関してさらに交渉する」とあるだけだ。米国が関税撤廃に応じるとは読み取れない。さらなる交渉をしても、これまでのトランプ米大統領の言動を踏まえれば、米国が自動車の関税撤廃をすんなり受け入れるとは考えにくい。

 自動車産業は日本経済の屋台骨で、関税の扱いは交渉の焦点だった。先に12カ国で合意した環太平洋連携協定(TPP)では、米国は最終的な関税撤廃を受け入れたものの、その後に就任したトランプ氏が約束をほごにした経緯もある。

 今回の協定について政府は、貿易額ベースの関税撤廃率を日本側84%、米国側92%と説明する。しかし、自動車の扱いが未定だとなれば、米国の関税撤廃率は大幅に低下する。これは世界貿易機関(WTO)のルールに反するのではないか。野党が厳しくただすのは当然だ。

 農水産品に関する「TPPの範囲内に収めた」という説明も怪しい。牛肉はTPP分とは別に米国向けに緊急輸入制限(セーフガード)の発動基準を設けるので、低関税で輸入できる量が増えるのは明らかだ。しかもセーフガードの発動時は、基準をさらに上げるよう米国と協議することまで約束している。

 日米両国は来年1月1日の協定発効を目指している。日本政府は国会の承認手続きを急ぐ構えだが、協定の中身が曖昧なまま先に進むことは許されない。将来に禍根を残しておいて「ウィンウィン」はないだろう。

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