暮らしに並走20年 困窮や孤立防ぐ 日常生活自立支援事業 増える待機者 受け皿どう整備

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

 高齢になって判断能力が低下した人などに、家計管理や福祉サービスの利用を手助けする「日常生活自立支援事業」が、開始から20年目を迎えた。親族の支えがない高齢者を困窮や孤立から防ぐほか、成年後見制度への橋渡しも担い、利用は開始当初から10倍以上に増加。一方、現場では対応が追いつかずに利用待機者が生まれている。

 10月下旬、福岡県福津市の高齢者施設。同市社会福祉協議会の小石原宏明さん(40)が、ここで暮らす夫婦の前に座った。施設利用料として、夫(83)の口座から下ろしたお金を机に置いて数えていく。「1万円、2万円…。請求額通り、ちゃんとありますよね?」。記帳した通帳も見せた。夫が確認すると、現金を施設の職員に手渡した。

 夫婦は2年前から、この事業を利用する。所持金が尽き、生活保護申請の窓口を訪れた際に紹介された。

 月1回訪れ、2人の口座に入る年金と生活保護費から施設利用料を支払う手続きをし、残金を管理する。夫に残るのは月1300円、妻(77)は2千円ほど。「施設代は払えるけど余裕はないですね。もう少しお金をためていきましょう」

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 夫婦は利用当初、借家住まいで光熱費や電話代、入院費などの未納があり、家計は赤字だった。妻は足が不自由だが、介護保険サービスは「なんも分からん」と利用していなかった。

 小石原さんは何度も訪れ、食費や電話代、光熱費などを別々の封筒に入れて手渡し、目的以外に使わないよう助言した。レシートを基に支出の見直しを持ち掛け、未納分を清算。渋る2人を説得し、介護保険サービスも利用してもらった。

 この日、説明中に妻は頭を下げた。「いろいろありがとう。自分たちじゃ、なんもできんですから」

 事業は、この夫婦のような高齢者や認知症患者、知的、精神障害の人を有料で支えている。公共料金の支払いを手伝ったり、生活費を定期的に届けたりして家計管理を支援。福祉サービスの利用を勧め、生活の質の向上にもつなげる。単なる金銭管理でなく、自分の意思で生活していくことを「伴走型」で支える。

 実施主体となる社協の全国組織「全国社会福祉協議会」(全社協)によると、2018年度の利用は5万4760件(速報値)で、記録が残る01年度から10倍以上に増えた。対象者は親族の支援がなく、孤立していることが多い。第三者の援助がないと困窮し、福祉サービスにつながらず孤立死する恐れも。これらのリスクを防ぎ、判断能力がさらに落ちれば成年後見制度の利用につなげられる特徴がある。

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 ただ、ニーズの増加で社協の負担は重くなっている。生活課題が複雑になり、知的、精神障害の人の利用も増えて支援にかかる時間が延びた。対応が追いつかず、年間の新規契約は16年度から伸び悩んでいる。

 さらに全社協が18年、全国約1450の社協に実施した調査では、利用待機が約2600件に上った。困窮や消費者被害に直面している人は支援を急ぐ必要があり、権利擁護の面でも課題になっている。全社協の担当者は「個々人の要望に応えるには丁寧な対応が必要で、どうしても人手が足りない」と訴える。

 そこで全国では、複数市町村を「基幹的社協」が担う形から、市町村社協が地元自治体の利用者に対応する「全市町村方式」に体制を改めている。迅速にきめ細かく援助するためで、今年4月時点で47都道府県社協のうち36社協が全市町村方式に。福岡県も本年度から移行を始めた。

 小石原さんは「利用者は自分でSOSを出しにくい人が多い。ニーズはもっとあるはず」と見る。個人の家計の立て直しは、生活保護受給に至るのを防ぐなど行政の負担軽減にもなる。増える利用に応えるため、受け皿をどう整備するかが課題だ。

 (河野賢治)

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【ワードBOX】日常生活自立支援事業

 地域福祉権利擁護事業として1999年に始まり、2007年に現在の名称になった。都道府県と政令市の社協が事業主体で、国と都道府県・政令市が事業費を折半する。内容を理解できることが利用条件。料金は各社協で異なり、訪問1回当たり平均1200円(生活保護受給世帯は無料)。

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