日本という国と天皇のルーツを再確認できる格好の手引書

西日本新聞

 比較することで、分かりやすくなったり、興味が増したりすることは多々ある。日本神話というと一般に「記紀(きき)」と呼ばれる『古事記』と『日本書紀』を指すが、重なった内容を扱っていながら、かなり異同のあることが知られている。たとえば、有名な「稲羽の素兎」(いなばのしろうさぎ)のエピソードに始まる大国主の一連の物語(出雲神話)は『古事記』にだけあり、『日本書紀』にはない。

 この程度のことは知っているという神話好き、歴史好きの人も多いだろう。では、次のクイズに答えてもらいたい。「稲羽の素兎」は何によって皮を剥がれてしまったか、ご存じだろうか。答えは「和邇」(わに)である。この和邇が実はサメのことというのも「常識」だと思っているかもしれない。ところが、これはやっぱりワニなんだそうだ。

 どういうことか。日本人の祖先は、氷河期の終わりに渡ってきた人々だ。北方や南方、大陸、朝鮮半島などさまざまな流入経路がある。そして、「稲羽の素兎」はインドネシアやオセアニアといった南方系の説話がルーツだという。つまり、元の話ではワニだったものが、日本には棲息しないため、ワニザメと解釈されるようになっていったらしい。

 このように、世界にまで視野を広げていくと、さらに理解や興味が深まる。本書は「記紀」の記述の相違を見るだけでなく、その内容を世界の類話と比較していて、これまでと異なる視点で日本の神話や日本人のルーツを再確認できるようになっている。

 しかも、全体が見開き構成で130ページ弱とコンパクトにまとめられてあるので、とてもありがたい。主要なエピソードはきちんと押さえられているし、各項目は見た目のボリューム以上に情報が濃い。前半の「神代の物語」はもちろん面白いが、後半に「天皇の物語」まできちんと取り上げられているのが貴重だ。かなりの読書好きでも、「記紀」を全巻読み通した人はそういないはず。しかし、「神武の東征」なんてヒロイック・ファンタジーのノリで、知らなきゃ損である。

 基礎教養を高める入門書、あるいは「記紀」を読んでみたい人のガイドとして、いろいろと役立つ一冊だ。
 

出版社:学研プラス
書名:くらべてみると面白いほどよくわかる! 【図解】古事記と日本書紀
著者名:ちはやぶる記紀神話研究会 編
定価(税込):748円
税別価格:680円
リンク先:https://hon.gakken.jp/book/1340669400

西日本新聞 読書案内編集部

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