毎年11月上旬、北九州市の八幡地区はお祭りでにぎわう…

西日本新聞 オピニオン面

 毎年11月上旬、北九州市の八幡地区はお祭りでにぎわう。「起業祭」である。1901年の官営八幡製鉄所の操業開始にちなむ。普段は入れない工場の公開やさまざまな催し、たくさんの出店などで盛り上がる

▼市民の楽しみとして定着している起業祭だが、ことしは例年とは違った雰囲気が。祭り前日、長年親しんできた八幡製鉄所の名称を、大分製鉄所との統合に伴い「九州製鉄所八幡地区」に変更する、と発表されたからだ

▼富国強兵を目指した明治政府が筑豊炭田に近い八幡の地に官営製鉄所を建設してから、「鉄は国家なり」の言葉通り、八幡製鉄所は産業の近代化、そして戦後の復興や高度経済成長をけん引してきた

▼官営から民営化され、社名も日本製鉄、八幡製鉄、新日本製鉄、新日鉄住金、日本製鉄と変わったが、八幡製鉄所の名称は残り続けた。「母なる製鉄所」の名が失われることを惜しむ声が、起業祭を訪れた市民からも、と本紙北九州版

▼製鉄所を中心とする工場群が繁栄の象徴だった北九州市。しかし、円高や新興国との競争による構造不況で「鉄冷え」は深刻に。福岡市より多かった人口は100万人を割った

▼地域浮揚の期待を担い、製鉄所内に建設されたスペースワールドも2017年末に閉園した。北九州は今、公害克服の経験を生かした環境技術都市への転換に取り組む。往時の「鉄都」を知る者には、寂しさがまた一つ。

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