阿蘇の価値を証明せよ 佐藤 倫之

西日本新聞 オピニオン面 佐藤 倫之

 世界文化遺産の登録を目指す阿蘇地域(熊本県)は今、追い込みを迎えた受験生さながら、見出しのような難問に直面している。

 活火山を中心とした雄大なカルデラ(火山陥没地形)、四季折々の大草原、温泉に湧水、あか牛…。魅力はいっぱいあるのだが、「世界にも類を見ない、顕著な普遍的価値を証明せよ」となると-。

 熊本県は2008年、登録の前提となる国の暫定リスト入りを目指したが、候補から外れた。ただ、次点の「カテゴリー1a」と位置付けられ、その時「宿題」として出されたのがこの証明問題。文化庁への追加認定の申請に向け、どう回答するか。19年度内の文書作成を目指し識者たちの大詰め会合が続いている。

 昨年から議論を聞いていて、ほうと思った一つは「阿蘇カルデラが最も魅力的だったのは、戦後間もない昭和の高度経済成長期」。今の約2倍の大草原で、火山と人、自然との豊かな共生・循環型の風景が広がっていた。世界遺産なんて発想もなかったあの時代、最も輝ける阿蘇があった。

 そのピークを考えると、今の風景は農業衰退や施設林立により、ある意味で「景観の劣化」が進んでおり、この現状をどう説明するか、識者たちは悩ましそうだった。

 でも、海外の人たちの「ASO」の面白がり方は少し違っているようだ。

 北外輪山にある扇棚田(産山村)の無農薬米の稲刈りを取材していた欧州のテレビ番組制作者はこう話した。

 「国立公園でもあるカルデラ内でこんなにも人々(約5万人)が暮らし、パチンコ店やバーまである。世界にも例がなく、そこが面白いんだよね」
 あるホテル社長は、阿蘇五岳を一望する大観峰に外国人観光客を案内し「どうです、この雄大な景色」と話を向けたら「いや、このコンパクトさが素晴らしい」と言われたそうだ。

 なるほど、今年7月に世界文化遺産に登録された「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」の一つ「仁徳天皇陵」も、大き過ぎて実感しづらい。

 27万年前からの大噴火と大陥没、人々の営みと闘いも刻まれ、層を成す阿蘇の大地。世界各地の巨大カルデラを考えると、「世界最大級」を競うのではなく、むしろ周遊散策しやすい「一望サイズ」こそが強みなのかも。

 多様な物差しやまなざしを踏まえ、阿蘇の文化的景観のポイントをどう整理し、国内外の人々に分かりやすく伝えるか。それは突き詰めると、かなり難しい小論文問題のようである。 (阿蘇支局長)

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