言葉がつなぐ 絆の伴走 人となりを知り、息を合わせて 苦しさは半分に、喜びは2倍に パラ五輪「銀」道下選手のガイド 堀内規生さん講演

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 偶然出会った視覚障害者ランナーの伴走者。やってみると、その奥深さに離れられなくなった。2016年リオ・パラリンピック女子マラソン(視覚障害)銀メダリスト、道下美里さんのガイドランナーを務めた福岡県篠栗町の会社員、堀内規生(のりたか)さん(38)が福岡市内で講演した。過酷なレースで、選手とぴたり呼吸を合わせる“二人三脚”を重ね、見えてきたものとは。
 
 障害児の父親たちでつくる福岡市の一般社団法人「福岡おやじたい」主催の定期セミナーで壇上に立った堀内さん。伴走の世界を知ったのは11年、ダイエット目的でマラソンを始めて1年後のこと。東京都内の公園で、「視覚障害」「伴走」とゼッケンを着けて走るコンビを見かけた。

 ●初めはもごもご

 伴走者が知人だったため「ただ好奇心で」2キロほど2人に着いて走ってみると、目の見えないその男性はかなりの速さ。カーブもスムーズに曲がる。近くの車道の音などからトイレの場所も分かっていた。「フルマラソンの記録も当時の自分より速く、驚いた」

 頼み込み、初めて彼に伴走したのは1周5キロのコース。「何を言っていいか分からず、全く曲がれず、おどおどして、もごもごしゃべるだけ」だったが、走り終えると何とも言えない達成感が湧いた。「もっと伴走を追求したい」と考え、本格的に始めた。

 ●走る力と話す力

 マラソンでの役割は路面やコース状況のほか、周りの選手の位置や顔色、息遣いまで説明する。互いに約50センチの短いロープの輪っかを握り、決めたペースで走りやすいよう「手の振り、位置、歩幅、足の回転まで合わせる」のも鉄則。大前提として、選手より走力があることも求められる。「しゃべりながら走るので、伴走者に余裕がないと務まらない」ため、日々、自身の鍛錬も怠らない。

 給水のボトルを取るのも伴走者の役割。「選手用に1本取るのに必死なので自分は飲めないこともある。普段から水を飲まずに走る練習を心掛けた」という。

 一方、目で見た情報を言葉にする訓練も。「見えない人の気持ちを知ろう」とアイマスクをつけ、地面の凹凸を感じながら走った。時間があるときはラジオで漫談や寄席を聞き、語彙(ごい)を増やした。

 ただ、コーチングに当たる可能性があるため「頑張れ、など叱咤(しった)激励の言葉」は禁じられている。

 ●日常の信頼から

 伴走者が足りないと誘われ、14年に道下さんを支える「チーム道下」入り。彼女は障害者マラソンでは男子でも難しい3時間を切る世界記録保持者。1秒間に4歩を刻むハイペースの練習だけでなく、合宿や遠征では食事のサポート、日頃はカラオケにも付き合った。「歌詞を耳元で伝えると早口で怒られた。マラソンより大変だったかも」

 理想は「まるで見えているかのよう」と言ってもらうことだが、彼女に言われたのは「まだ2回程度」。選手と異なり、当初は遠征費も出ないなど伴走者の待遇面でも課題は多いものの、8年も続けているのは「2人で走る分、苦しさは半分、喜びは2倍になる」からだ。伴走がうまくいくかどうか、結局は「日常生活も含めて人と人との長い付き合いの中で生まれる信頼、相性だ」と考える。

 社会ではまだ、健常者、障害者と区別されがち。

 「僕との違いはただ見えないだけで、障害者と思ったことはない。たぶん困り事を知れば、誰でも何かできる。まずその人を知ること。それが一番です」
 (三宅大介)

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