一角獣は画家の分身? ギュスターヴ・モロー展 女性たちに謎の「冷たさ」

西日本新聞 もっと九州面

 「秋」と言えば「芸術の秋」、美術館に行ってみよう-と思い立ち、ある晴れた日、福岡市美術館(福岡市中央区大濠公園)へ足を向けた。「ギュスターヴ・モロー展」が開かれている。モローという画家のことはまったく知らなかったが、会場に並んだ作品の中で、白っぽい一枚の絵が不思議と目に留まった。

 一角獣(ユニコーン)が若い女性にすり寄っている。「一角獣」(1885年頃)という絵で、モロー晩年の作という。

 一角獣は、同名の別の作品にも描かれている。豪華に着飾った女性たちが一角獣と水辺で親密そうな時を過ごす図柄。どちらの絵も、透明感ある色彩や繊細な線描が甘美な雰囲気を引き立てている。

 でも、どこか違和感がある。処女にしか懐かないとされる一角獣の一途なまなざし。それとは裏腹に、女性たちの視線はうつろだし表情も冷淡ではないか。一角獣と女性たちの間の「距離」を感じて、私はなんだか切なくなってきた。

 そうなると、モローが描く冷たい女性たちが気になってくる。同美術館の忠(ちゅう)あゆみ学芸員に尋ねると「モローにとって女性は至高の存在。近寄りがたい存在として表現したのかもしれません」と解説してくれた。

 モローはその生涯で2人の女性を愛したという。母ポーリーヌと、恋人アレクサンドリーヌ。精神的に深い結びつきがあったことは素描からうかがえる。

 だが、2人はモローを残してこの世を去ってしまう。モローにとって、女性は愛しても永遠に手の届かない存在となった。その神秘性に憧れながらも、触れるとわが身も滅ぼされる畏れすら抱いていたのかも…。

 一角獣とはモローの分身なのだろうか-という感想を忠学芸員に伝えると、「絵の解釈はさまざま。一枚の絵が導く『想像』という世界に足を踏み入れてくれましたね」とほめられた。うれしい。

 ギュスターヴ・モロー(1826~98)は「フランス象徴主義の巨匠」と呼ばれている。象徴主義とは19世紀後半に起きた芸術運動の一つ。同時期、モネやルノワールらの印象派も生まれているが、それに比べて象徴主義は日本人にはなじみがない。汽車や街灯が登場して科学技術が進歩する時代にあって、神の世界や運命など目に見えないものを表現しようとする試みだったという。その中で、今回展示されているモローの「出現」は最高傑作とされる。聖書に登場するサロメが神秘的に描かれている。

 今回の展覧会はモローが女性を描いた作品にフォーカスし、最愛の女性からサロメら歴史や文学を彩るファム・ファタル(宿命の女)まで、国立ギュスターヴ・モロー美術館所蔵の油彩、水彩、素描など100点を並べている。

 入り口で借りたイヤホンガイド(600円)で、モローファンの俳優石坂浩二さんが、ナレーションの最後にこんなことを言っていた。

 「女性が持つ多面性とその絶大な影響のもとで、愛し、苦しみ、夢見、創造した画家モロー。モローにとってファム・ファタルとは、自身を逃れようもなく絵を描き続けることに駆り立てた、見えざる力だったのかもしれません」

 私もだれかのファム・ファタル?などと妄想を膨らませながら絵を見るのも楽しいかも。あなたも、作品を鑑賞し、心に残る一枚の絵に出合ってほしい。(田中仁美)

▼ギュスターヴ・モロー展 24日(日)まで、福岡市美術館(同市中央区大濠公園)。副題は「サロメと宿命の女たち」。一般1500円など。9日(土)午後3時からは、忠学芸員のギャラリートーク「純潔の乙女編」も開かれる。開始5分前に特別展示室前に集合で、当日の鑑賞券が必要。同美術館=092(714)6051。

福岡県の天気予報

PR

PR

注目のテーマ