僧侶が授業 「性と生と死」 あなたはあなたのままで 必ず分かってくれる人が 佐賀の古川潤哉さん 思春期に語り掛け

西日本新聞 くらし面 川口 史帆

 佐賀県伊万里市の浄誓(じょうせい)寺僧侶、古川潤哉さん(43)が法衣をまとって性教育の出前授業を続けている。テーマは「性と生と死」。自認する性がどんな形でも、今いる境遇に生きづらさを感じていたとしても、「あなたは、あなたでいるだけで大切な命です」。年間30校ほどを回って、思春期の中高生に呼び掛ける。

 「私はお坊さんです。教科書のように正解を教えるのではなく、あなたの味方として話をします」。10月29日、佐賀県武雄市の北方中で、3年生約60人に向けて古川さんは始めた。

 「性教育って何のためにあると思う?」。古川さんの問い掛けに、「感染症予防」「将来のため」と生徒たち。「それもだけど、今、性のことで苦しんでいる人がいっぱいいます。皆さんが学ぶのは、未来の自分が性で悲しんだり、誰かを傷つけたりしないようにするためです」

 「性教育をしていると言うと『子づくり教えよっとや』なんて言う大人がいる。これが今の日本。でも性ってそれだけ?」。「恋愛」「コンプレックス」「思春期」。生徒はそれぞれに考え、言葉にしていった。

 古川さんは、学校の名簿には性別が男女しかないが、実際には多様な性があると説明。「好きな人が同性でも異性でも、自分が思うとおりで大丈夫。無理に打ち明けなくても、他人に合わせなくてもいい。分かってくれる人とも必ず出会えます」と強調した。

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 この日の授業は、2011年から佐賀県から受託している、県DV総合対策センターによる予防教育プログラムの一環。神奈川、兵庫、熊本など、県外の高校から個別に依頼されることもある。横浜や京都で開かれる「AIDS(エイズ)文化フォーラム」で毎年登壇するほか、今年10月に鹿児島市であった日本性科学会学術集会での講演など、医療関係者向けの啓発も、寺の仕事の合間に行っている。

 活動のきっかけは、大学を卒業し、住職である父の後を将来継ぐため寺に勤め始めたばかりの2001年、浄土真宗本願寺派の活動で始めたホスピス訪問だった。がんやエイズの患者と接し、エイズウイルス(HIV)の正しい知識を広めていく中で、講演会や勉強会に若者の姿が少ないことに気付いた。

 27歳のとき、12月1日の世界エイズデーに合わせて、看護学生らと性感染症予防啓発サークルを結成。若者が集まる佐賀市のクラブやライブハウスで、正しいコンドームの使い方を示す寸劇などを演じ、僧侶の姿で相談も受けた。

 間違った性交や避妊の方法を信じている人、「死産した子はあの世で恨んでいるだろうか」と悩む女性…。ある時声を掛けてきた男性は、育てるお金がなく彼女が中絶したと打ち明けた。「彼女が今もつらそうだ。せめて供養したい」。浄土真宗では水子供養の考え方がなく、寺では行っていないが、彼女と一緒に来てもらった。話に耳を傾けるだけでも、2人はほっとした表情になった。

 指導したり叱ったりするのではなく、僧侶だからこそ受け止めて癒やせる苦悩があることを知った。相談先を知らず、ネット情報に左右されがちな未成年は、もっと悩みを深めているだろうと感じた。

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 「生と死、両方を含めて命。生まれなきゃ死なないし、死という区切りがなければ、今を大切に生きるという概念はない。その命をつなぐのが性」。宗教者として、教師や保健医療関係者の話にはないような性の考え方も知ってほしいと工夫する。

 「『命を大切にする』ってどういうこと?」。古川さんはまた生徒に問う。自殺予防を訴える場で、この言葉が多用されることに疑問を感じている。「自死した人は命を粗末にしたわけじゃない。追い込まれ、死しか選べなかった。命を大切にすることと自殺しないことは同じ意味じゃないよ」。言葉に力を込める。

 諸外国と比べて、日本の子どもたちは自尊感情が低いと指摘されるのは「寛容さをどんどん失い、差別が増大する大人の社会に問題があるからだ」と古川さんは考えている。他人の苦しみに思いを致し、あらゆる違いを認め合うことが、性の尊重、ひいては命を大切にすることにつながる。

 だから語り続ける。「自分は大事な存在なんだと気付いてほしい。そうすればお互いを大切にできる。一緒に生きていこう」 (川口史帆)

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