保釈中の逃走、悩む現場 「人質司法」是正へ試行錯誤

西日本新聞 社会面 山下 航 野間 あり葉

 裁判員制度導入を機に保釈率が上昇する中、保釈中の被告が逃走したり、再犯したりする事件が相次いでいる。被告が逃走すると、市民生活に大きな影響が出る。責任を持つ検察側は不手際を認めつつ、「裁判所が安易に保釈を認めすぎる」との恨み節も。「人質司法」是正の流れに水を差すことなく、トラブルをどう防ぐか。刑事司法の現場で試行錯誤が続いている。

 北九州市内の民家で現金などを盗んだとして窃盗罪で福岡地裁小倉支部に起訴された男(28)は、昨年9月に保釈された後、連絡が取れなくなり、今年1月の公判に姿を見せなかった。警察が行方を追い、7月に大阪市中央区で身柄を確保した。捜査関係者によると、知人が経営するホストクラブで働きながら身を潜めていたという。

 北九州市では8月にも窃盗罪などで起訴された男(24)が保釈後、ドラッグストアで万引したとして窃盗容疑で再逮捕された。神奈川県愛川町で今年6月、窃盗罪などで実刑が確定した保釈中の男が自宅から逃げ出した事件は、ワイドショーでも連日報じられた。

 最高裁や検察統計によると、全国の地裁・簡裁でいったん保釈が認められながら、逃亡や証拠隠滅などの理由で取り消されたケースは2009年の53件から18年は127件に増えた。18年に保釈中の再犯で起訴された罪名別では覚せい剤取締法違反罪(103件)や窃盗罪(79件)が目立つ。

 検察は、保釈中の被告を公判が開かれる際や実刑が確定したときに呼び出すが、来ない場合は主に検察事務官が自宅などを訪れて出頭させることになる。愛川町の場合、収容状を持ち自宅アパートを訪れた検察事務官5人に被告が包丁を振り回し、逃走した。

 この事件を受け、最高検は8月、検証報告書を公表。保釈の増加に伴って収容業務が検察の大きな負担になっており「適正な人員の確保が不可欠」とする内容だった。検察官OBは「逃走、再犯を防ぐには監視を強化するしかないが、今の検察の要員ではとても手が回らない」と打ち明ける。

 被告が逃走すれば地域住民の不安は高まり、警察は大規模な追跡をせざるを得ない。九州のある県警幹部は「捜査員の負担は大きい。裁判所には常習性の有無なども含めた慎重な判断をしてもらいたい」と話す。

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 一方で、前日産自動車会長カルロス・ゴーン被告の件で改めて注目されたように、長期に及ぶ身柄拘束が常態化する日本の刑事司法に対し、国内外の目は厳しい。被告の相次ぐ逃走や再犯についても、保釈率の上昇で保釈される被告の数自体増えており、トラブルが起きる割合が大幅に上昇しているとは言い難い。

 甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は「身体拘束の目的は証拠隠滅を防ぐためであり、再犯の可能性があるから保釈を認めないというのは刑訴法上おかしい」と指摘する。

 日本では逃走自体を処罰する法律はない。保釈率が高い欧米では保釈中の逃走を処罰したり、衛星利用測位システム(GPS)を使って被告を追跡可能にしたりする国もある。

 20年以上裁判官を務め、主に刑事事件を担当した法政大法科大学院の水野智幸教授(刑事法)は「裁判官が保釈後に被告が逃走、再犯するかどうかを見極めるのは難しく、GPSを付けることを保釈条件にできるようにする法整備などが必要だ」と指摘。「逃走、再犯をしたケースでの反省点を裁判官同士で共有することも、こうした事案を減らすことにつながるのではないか」と話している。 (野間あり葉、山下航)

【おわび】
 11月9日に配信した「保釈中の逃走 悩む現場」の記事の中で、甲南大の笹倉香奈教授のコメントとして「逃走や再犯が増えているのは保釈される被告が増えたからだ」と記載していましたが、笹倉教授の見解と異なるため18日午前に削除しました。

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