「一角獣」と少女マンガ 大串 誠寿

西日本新聞 オピニオン面

 作品「出現」で悪女サロメのイメージを決定づけた画家ギュスターヴ・モロー(1826~98)は、新しい美も創造した。その代表作「一角獣」は野原に宝石箱をひっくり返したような輝きを放つ。当時、収集家は「今まで見たものの中で最も美しい!」との感想を彼に送った。

 19世紀末のフランス美術界はルノワールら印象派の台頭で、保守派のサロンは固陋(ころう)な存在と見られ始めていた。古典的画法で「エウロペの誘拐」などを描いたモローは、印象派に対抗できる保守派の実力者として期待された。しかし彼は画壇を離れ、独自に近代絵画の可能性を追究した。

 その革新性を詳述する紙幅はないが、透明感ある薄塗り、輪郭線の多用、遠くを淡い色で塗る空気遠近法にとらわれない彩色などの特徴が挙げられる。20世紀のモダンアートに見られる画法だ。「一角獣」はそれを先取りした。

 モローが「一角獣」を描いた同時期、ルノワールは「田舎のダンス」を描いたが、形態の重視が陳腐だと指摘されるなど、既存の油彩画法の呪縛を解けずに苦しんだ。しかしモローは、自身が古典画法の継承者と位置付けられていたにもかかわらず、この轍(てつ)を踏まなかった。

 さらに聖書や神話から画題を取る、当時の常識からも抜け出した。

 「一角獣」制作の数年前、フランス中部の古城に伝えられていた15世紀末ごろのタペストリー作品「貴婦人と一角獣」が、パリのクリュニー中世美術館に収蔵された。モローはこのフランス工芸の至宝から「一角獣」の画想を得たとされる。同作について「女性だけが集う魔法にかけられた島」と語ったように、女性美を主題にしてファンタジックな世界を設定したのである。

 モローは独自の美を至上とする画法と世界観を探究した。それは興味深いことに、100年後の日本で開花する「少女マンガ」のそれと酷似している。画面右の女性の横顔、侍女の大きな瞳を実物で確認してほしい。

 モローの絵が、後年の少女の夢を先取りしていたとしたら、「今までで最も美しい」といった収集家の弁も腑(ふ)に落ちる。 (写真デザイン部次長)

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