冷戦終結30年 新たな「壁」を乗り越えよ

西日本新聞 オピニオン面

 東西冷戦の象徴とされた「ベルリンの壁」崩壊から、きょうで30年になる。冷戦終結で米ソ両大国による核戦争の恐怖は去った。世界はイデオロギー対立を脱して自由と民主主義、市場経済といった旧西側の価値観が基軸となり、協調と共存の道を歩むかと思われた。

 30年後のいま、世界は自由や豊かさを享受しているのか。現実は異なるだろう。

 第2次世界大戦後40年余り続いた東西両陣営の対立がなくなると、民族や宗教などに起因する紛争が続発した。2001年の米中枢同時テロを契機に、米国は「テロとの戦い」を掲げてアフガニスタンやイラクに軍を進めた。だが現地で民主化が実現したとは言えず、むしろイスラム過激派などの温床となり混乱の収束は見通せないままだ。

 唯一の超大国として国際秩序の守護者と期待された米国だったが、イラク戦争を巡り欧米の対立も深まり、世界は多極化に向かった。

 米国は経済のグローバル化の恩恵を享受した半面、国内に極端な貧富の格差をもたらし、これに憤る人々が「自国第一」を掲げるトランプ大統領を押し上げた。トランプ氏は支持者に迎合して従来の米国の政策を転換した。社会の分断をあおり、移民流入を防ごうと国境に新たな「壁」の建設を急ぐ。その姿に、自由と民主主義の現状が投影されている。

 英国のジョンソン首相が主導する欧州連合(EU)からの離脱にも共通点がある。富の分配が偏り、移民や難民を含む他者への「不寛容」の広がりだ。有効な対策を打てなかった既成政党への不満は、多くの国でポピュリズムの波を生んでいる。フランスで続く黄色いベスト運動の抗議にも通底する。

 冷戦後の世界で中国の経済大国化は顕著で、米国と覇権を争うまでになったが、経済成長に伴い民主化されるという期待は裏切られた。ソ連解体後も大国として振る舞うロシア同様、独裁的統治は勢いづいている。

 各国が内向きになる一方で、世界はさまざまな危機に直面する。地球温暖化に歯止めがかからず、核兵器廃絶も後退。異常気象や地域紛争は貧困や飢餓を招き、大量の難民を生み出す。それがまた分断につながる負の連鎖を断ち切らねばならない。危機を直視し、国家や民族、宗教などの「壁」を越えて行動することが求められる。

 自由と民主的制度を求めて行動する香港の若者や温暖化対策を訴え世界を駆け巡る10代の活動家を、傍観していてはなるまい。自由や民主主義の価値を見直し、危機に立ち向かう連帯と協調の枠組みを再構築したい。

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