「最悪の戦場に奇蹟はなかった」を読み解く ビルマ戦記を追う<22>

西日本新聞 文化面

 歩兵第百二十四連隊の評判の悪さに触れる形になった。実は先に紹介した「軍楽兵よもやま物語」にも同連隊に関する記述があり、ずばり「ゴロツキ」との呼称が使われている。頭も家柄も良い軍楽兵から見れば、粗暴で手癖の悪い福岡の兵隊たちは軽蔑対象だったと思われる。

 その歩兵第百二十四連隊にいた高崎伝氏の手にかかるのが本書である。「最悪の戦場」とはガダルカナルとインパールを指す。悲惨で知られる戦地をふたつ経験することになった福岡の兵隊たちは不運だが、その性質はどこにあっても変わらない。ガダルカナル島でも他部隊と反目し合い、盗みを働く。気のせいでなければ、それらをあけすけに書く高崎氏には誇示が感じられる。

 ガダルカナル撤退後フィリピンでの入院が長引いた高崎氏は、原隊に遅れてビルマへ向かう。戦力回復期間を経た原隊はすでに第三十一師団に編入されており、インパール作戦へ向けて動いていた。

 高崎氏のビルマ入りは作戦も中止されようかという頃である。部隊追及を果たせぬうちに後退の指示を一度は受ける。ところが高崎氏は諦めない。戦友に会いたい一心でジャングルの道を進み続け、懐かしい顔と出会うたびに再会を喜び、やがて原隊復帰を果たす。

 どういうわけか福岡連隊の仲間意識は他連隊のそれよりも強い。仲間意識が強いぶん、他部隊やよそ者に対抗意識を燃やし、ときには迷惑を省みない。総じての印象で言えば単純で子供っぽい。

 本書には、その点でひとつおもしろい逸話がある。

 高崎氏の不在間に着隊していた新しい兵隊たちが、復帰直後の高崎氏を一目見るなり「お前、どこの兵隊や」とケンカ腰になる。あたかも他校生と目を合わせた不良学生である。高崎氏がガダルカナルを経験した古参と知ったとたん彼らは詫(わ)びるのだった。 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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