帰国危険、でも国境へ カンボジア元野党党員 数百メートル先「いつか」

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 約束の日、国境にリーダーは来なかった-。カンボジアのフン・セン政権打倒を掲げ、独立記念日の9日に約4年ぶりの帰国を宣言していた元最大野党カンボジア救国党党首サム・レンシー氏の計画は実現しなかった。だがこの日、タイとカンボジアの国境には、レンシー氏と共に入国しようと、海外の逃亡先から駆けつけた元党員たちの姿があった。

 数百メートル先に、帰国を夢見た母国のポイペトが見える。元救国党員のブンキエンさん(64)とブーンナさん(62)夫婦が暮らす米国からバンコクに入ったのは今月5日。その後、国境の町アランヤプラテートに着いた。他にも十数人、元党員が集まっていた。

 レンシー氏が元党員や支援者に対し、一緒に歩いて国境越えをしようと呼び掛けていたためだ。だが、肝心のレンシー氏はフランスからタイに向かう航空便に乗れなかった。9日にマレーシアに到着したとの情報が流れたが、自分たちは取り残される結果に。「落胆? 私は『さらに活動を続けるんだ』という思いを強くしただけ」。ブンキエンさんは気丈に語った。

 2人は内戦が続く1980年代、母国を逃れ渡米。ともに教師となり、4人の子を育てた。この間に和平が実現し、総選挙もあった。救国党は近年、与党に迫る議席を獲得。夫婦は「真の民主主義、帰国できる日が近づいた」と思った。

 だが30年以上実権を握るフン・セン政権はその後、政敵のレンシー氏を逮捕しようと圧力をかけて海外逃亡に追い込み、救国党も2017年に解党処分に。今回の帰国計画に対しても、入国すれば即逮捕し、支援者も罪に問うと警告した。

 9日、記者がポイペトに入ると、ライフル銃を持った治安部隊が至る所に立ち、普段は観光客でにぎわうカンボジア屈指のカジノタウンは閑散としていた。半面、レンシー氏が呼び掛けた「住民の蜂起」が起きなかった現実も示していた。

 夫婦はこの日朝、自分たちだけでもカンボジアに入ろうとした。タイ側出国管理の係官に言われたのは「タイにいてもいいが、向こうは安全じゃない」。カンボジア側の当局者が次々に現れて写真を撮り始めたため、入国をあきらめた。

 タイ側での取材時、カンボジアに協力しているタイの私服警官とみられる男性が夫婦や他の元党員に近づいた。支援者によると警官は「あなたたちをこの後フォローします」と語ったという。その警官はポイペトに向かう記者にも付いてきて、携帯端末で撮影した。

 「これだけ警戒しているのは、フン・セン氏が権力を失うのを怖がっているから。今回は帰国できなくても、ひどい状況を国際社会が知ることになるという意味では、成功だ」。ブンキエンさんが語ると、妻はこう結んだ。「いつか子どもたちと一緒に帰りたい」 (カンボジア・ポイペト、タイ・アランヤプラテートで川合秀紀)

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