「暴言大賞」に強く推す

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 今年もまた「政治家の暴言・放言大賞」発表の時期が近づいてきた。

 私が今回、2019年の大賞に強く推したいのは、萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言である。

 以下、「暴言大賞」選考委員の皆さんに、私なりの推薦理由を述べたい。

   ◇    ◇

 第一は、この発言のインパクトの強さである。

 萩生田氏はテレビ番組で、大学入学共通テストの英語民間検定試験導入について「家庭の経済状況や住む地域によって不公平が生じるのではないか」という趣旨の質問に対し「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえば」と答えた。

 民間検定試験は受験料が高いものでは2万円超かかり、会場も都市部に偏りそうだ。都市部の裕福な家庭の子どもが何回も予行演習できる一方、そうでない子(つまり田舎の裕福でない子)が不利になる、との懸念が広がっていた。

 その懸念に対する答えが「自分の身の丈に合わせて」なのである。九州の片田舎で、裕福とは言えない家庭に育った私の耳に、萩生田氏の発言は「田舎者と貧乏人は高望みするな」という意味に聞こえた。

 この解釈が、推薦者である私の個人的なひがみ根性か、地方居住者に共通する憤りなのかは、選考委員の判断に委ねたい。

   ◇    ◇

 推薦理由の第二は、発言の背景の重大性である。

 小泉純一郎政権が新自由主義的な経済政策にかじを切って以来、国内では非正規労働者が増加し、社会の格差が拡大している。

 これに対し、安倍晋三政権や現在の自民党の「格差是正」への取り組みは不十分である。政界でも「自己責任論」が幅を利かせ、厳しい境遇にある人々への思いやりが失われている。

 昔の自民党は成長の果実をいかに地方や労働者層に分配するか、それなりに留意していた。例えば田中角栄氏のような貧しさに苦労した政治家が、党の中心にいたことと無縁ではない。

 今や都市化し、世襲化が進む自民党は、社会の「階級化」を容認するようになったのではないか。その懸念を「身の丈」発言は裏付けた。発言を「本音大賞」にも推薦したいと思う。

 ちなみに、大人にはその境遇について一定の自己責任がある。しかし、子どもに境遇の自己責任を説くのは、全くの筋違いである。

   ◇    ◇

 第三の推薦理由は、発言の影響の大きさだ。

 安倍政権は急きょ、大学入学共通テストへの英語民間検定試験導入を見送り、再検討することにした。

 もともと民間試験導入については、地域や経済格差以外にも数々の問題点が指摘されており、全国高等学校長協会などが導入の延期を要請していたほどだ。しかし政権も文科省も実施を強行しようとしていた。

 それが「身の丈」発言で流れが急転した。発言が制度の危うさを見事に浮かび上がらせたからである。ある意味、発言があってよかったと思えるほどだ。

 以上、インパクト、背景、影響力とも今年の大賞にふさわしい発言と考え、ここに推薦するものである。

   ◇    ◇

 蛇足だが「暴言大賞」も選定方法も私の創作だ。

 もし本当にそうした賞があるとすれば、選考委員は読者の皆さんである。

 (特別論説委員)

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ