緩和ケア病棟、耳傾ける宗教者 浄土真宗の福祉団体「ビハーラ福岡」 医療者と違う立場で支える

西日本新聞 医療面 斉藤 幸奈

 宗教者が患者の心の痛みに耳を傾けるなど、病院で活躍している。医療現場では、終末期にある患者自身が家族や医療者と話し合って治療方針を決める取り組みが広がりつつあり、自らの死と向き合うケースは増えている。宗教者は死についても語り、医療者には言えない不安や葛藤を受け止める役割を果たす。那珂川病院(福岡市南区)の緩和ケア病棟(24床)で傾聴ボランティアを続ける浄土真宗本願寺派の福祉団体「ビハーラ福岡」に10月のある日、同行した。

 「お話しさせてもらえませんか」。僧侶の悟さん(64)=仮名=が70代男性の病室を訪れる。日当たりのいい個室に妻と2人。初めは緊張した様子の男性だったが「(体の)あちこちにガタがきてね」と語り始めた。「もう、がんの治療はせんでいいって思うとです」

 相づちを打つ悟さんは脳梗塞の後遺症で車椅子に座っている。「私の体もいろいろ壊れてますよ」と少しおどけると、男性が初めて笑みを浮かべた。

 孫の話、運送業に就いていたこと、余命宣告をされながら何度も“奇跡”を起こしてきたこと…。あっという間に20分ほどが過ぎた。「(夫と)2人では会話が続かないから、今日は聞いてもらえて気分転換になった」と妻。いつしか男性の声にも張りが出ていた。

 悟さんは陶磁器のかけらで手作りしたペンダントを贈り、病室を後にした。「また」とは言わない。活動は月2回、この病棟の平均入院期間は24日程度。次の訪問時には亡くなっている人もいる。だからこそ、今の思いを受け止める意味は重い。

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 仏教色は、特に感じられない。メンバーで僧侶の堤速生さん(73)は「さまざまな信仰があるので特定の宗教を前面に出すことはしないし、布教もしない」と強調する。ただ、死生観にまつわる話になったとき、浄土真宗の教えが生きるという。

 「死ぬのが怖い。死んだらどうなるのだろう」と問われることがある。聞く側に確固たる死生観がなければ「怖いですよね」などと共感するのが精いっぱいかもしれない。

 堤さんは、旅立った先に既に亡くなった大事な人たちが待っており、後に残されて悲しんでいる人たちの元へいつか帰ってくるという内容を、患者の信仰や宗教への関心に合わせて語る。それが、患者の心に安らぎをもたらすと実感してきた。

 死を意識したとき、初めて宗教を身近に感じる人が多いとも感じている。日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が全国の男女千人を対象にした調査(2018年)によると、「宗教は死に直面したときに心の支えになるか」という問い対し、約3人に1人は「なると思う」と答えている。

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 国は、患者が家族や医療者、介護者らと話し合って終末期の治療方針を決める「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を推進。希望すれば、自身の病状や余命をつぶさに知ることになる。

 約30年前から病院などでの傾聴活動に取り組むビハーラ福岡代表の藤泰澄さん(69)は「死に直面することで、死後の世界はどんな所なのか、もっと詳しく知りたいと考える人もいる」。現在、福岡県内の病院や介護施設など計4カ所で活動。条件が合えば、他の施設にも出向くという。

 宗教や宗派を超えた「日本臨床宗教師会」が16年に発足し、昨年には資格認定を始めた。これまで約190人が認定され、医療・福祉施設で患者に寄り添っている。同会事務局次長の鍋島直樹龍谷大教授は「今後は患者やその家族だけでなく、患者を見送った後、葛藤や後悔を抱える医療者を支えることも求められる」と指摘する。

 この日、堤さんが話を聞いた患者は同世代。同じ映画や歌に親しんできた。同時代を生きた仲間として一緒に人生を振り返る。患者は「若い頃の話をしていると、つらさを忘れられる」と喜んだ。

 誰にもいつかは訪れる死。「私だって怖いですよ」と堤さん。傾聴活動を通して「人生のしまい方」を勉強させてもらっているという。「医療者ではない私たちだからできることを、これからも考えていきたい」と力を込めた。(斉藤幸奈)

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