藝術舞台2019 令和のはじめ(1)能「高砂」 人生の全て 芸に反映
能は型による。歩く、回る。手を上げる。扇を広げる。早く歩くこともあればゆっくり歩く場面もある。微妙な変化が物語の情景やシテ(主役)の心情を表す。能は徹底した抽象表現だが見る者の想像力しだいで無限のリアリティーに向かって開かれている。
鷹尾維教は90年続く観世流シテ方能楽師の家に生まれ、物心つく前から能に触れてきた。初舞台は2歳である。「藝術舞台2019」では「高砂」を舞う。
「新天皇のご即位を祝い、いやさかを祈りたい」
高砂の松(女)と住吉の松(男)が離れていながらも共に老いるまで長寿で末永く幸せに暮らす物語。結婚披露宴の謡の定番であるが、面と装束を着けて舞う正式な能を見た人は少ないかもしれない。
鷹尾の舞に筆者は言葉では語れぬ温かさを感じた。装束の内側にある熱いものが舞台を包む気がした。その問いに鷹尾は直接には答えずこう言った。
「能の在りようは舞台での修練だけではありません。日々の生活の全てが反映されるのです」
「高砂」でステージを浄化したいと鷹尾は言う。無明の時代にある私たちに生きるヒントをくみ取ってもらえればという願いだ。
=文中敬称略
(井口幸久)
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福岡文化連盟(川崎隆生理事長)が主催する「藝術舞台2019」は会員たちの多様な芸を披露する。電子情報による仮想現実ばかりが進化する現代にあっても肉体を鍛え続ける人々だ。出演者の姿を紹介する。
▼藝術舞台2019 12月1日午前10時半開演、福岡市民会館。全席自由、4千円(当日4500円)。入場券はチケットぴあで販売中。問い合わせは福岡文化連盟=092(711)5585。