「命と希望」片腕で絵筆に託す 長男の死乗り越え詩画制作  筑後市の山北さん

西日本新聞 筑後版 平峰 麻由

 「けなげに一生懸命生きている草花の生きざまを描きたい」。農作業中の事故で右腕を失い、その後長男を亡くした筑後市の山北直利さん(71)は、失意の中で出会った1輪の花に胸を打たれ、詩画の制作を始めた。色鉛筆や水彩画で繊細に描かれた草花の横には、左手で書いた詩が添えられる。その作品には生きることに向き合うメッセージが込められている。

 大木町出身でブリヂストンの子会社に就職。2男1女に恵まれ、大黒柱として働き盛りだった1994年10月、実家の農業の手伝い中、コンバインに右手を巻き込まれ肩から先を失った。会社を辞めざるを得ず、子どもの学費など経済的に追い詰められた。少しでも収入を得ようとタマネギ栽培に乗り出すが、左手1本で4千株を植える無茶をして、その左手まで痛めてしまう。「ふさぎ込む姿を子どもたちに見せたくなくて張り切ったのと…半ばやけくそだったんでしょうね」

 病院に行った帰り道、雪にまみれて咲く花が目に留まった。「誰にも気付かれず、けなげに咲く姿に胸が震えた」。口に筆をくわえて詩や絵を描く作家・星野富弘さんの作品を思い出し、絵を描いてみようと思い立って、左手で絵筆を握ってみた。1作品完成させるのに5時間近くかかったが、制作中は無心になれた。初めて添えた詩には正直な気持ちをつづった。「身体が不自由なら心を豊かに生きてゆこう」

 制作に心を支えられ、ようやく生活が落ち着きを取り戻していた8年前、再び不幸に見舞われる。長男=当時(34)=が突然の病に倒れ、数日で亡くなった。それをきっかけに妻とも離婚。自殺も頭をよぎったが「生きたくても生きられなかった長男の分も、生きてやらないと」。すがる思いで、絵筆を握る手に再び熱をこめた。

 もともと絵を描くのは得意ではない。それでも「長男に後押しされるかのように」絵筆を握り続けた。描いた作品は500点以上。年6回ほど作品展の依頼がある。「作品を通していろんな人と交流することが、今の自分の支え」と言い、個展会場に置いた来場者の感想ノートには「感動した」「自分も家族を亡くした」などの言葉が並ぶ。「生きていれば苦しいこともある。それでも、生かされているうちは命を全うしないといけない。自分も絵を描き始めてそう思えた。作品を見た人に生きる力を与えられれば」
 (平峰麻由)

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