権力の横暴とマスコミの閉塞 記録映画「i-新聞記者ドキュメント」 森達也監督に聞く

西日本新聞

 沖縄の米軍普天間飛行場辺野古移設問題などを巡って、菅義偉官房長官の会見で「質問妨害」を受け、「知る権利」のあり方に一石を投じた東京新聞社会部の望月衣塑子(いそこ)記者を追ったドキュメンタリー映画「i-新聞記者ドキュメント」(113分)が15日、全国一斉に公開される。森達也監督は取材に対し「政治権力の横暴とマスコミの閉塞(へいそく)状況はここまで来ているのか、と思った」と撮影を振り返る。

 少女時代から続けた演劇で鍛えた声はよく通って、歯切れが良い。望月記者は菅官房長官会見で、質問を1回で終わりにせず、重ねて質問する。官邸側が同じ質問だととがめると、「きちんとした回答をいただいていないから繰り返しています」と食い下がる。

 映画には、辺野古埋め立てや沖縄の県民投票などを巡って菅長官をただす場面がある。疑惑追及には前段に趣旨説明が必要だ。これに対し、首相官邸報道室側は、望月記者の質問中、「質問は簡潔にお願いします」「質問に入ってください」などと口をはさんでは質問をかき消す。

 映画は、こうした数々の会見映像を縦糸に、望月記者の取材の様子を横糸に織り込む。取材先は、沖縄・辺野古の住民や沖縄防衛局の幹部であったり、森友学園元理事長の籠池夫妻であったり、加計学園を巡る「首相のご意向」文書問題で会見した元文科事務次官の前川喜平氏であったり。質問のもととなる取材でもある。官邸に近い人物が関係したとされる性暴力の被害を訴えた伊藤詩織さんへの取材も映し出す。

 ★言論弾圧か、マスコミは機能しているか

 映画の問い掛けの一つは、望月さんに対する首相官邸の対応は言論弾圧ではないのかという点。首相官邸側は昨年暮れ、報道室長の名で望月記者の質問を「事実誤認」と問題視する異例の申し入れ文書を記者クラブに出す。これに対し、新聞労連は「記者の質問の権利を制限し、国民の『知る権利』を狭める」と抗議する。そうした経緯を映像でたどる。

 国会答弁で「(望月記者の質問は)決め打ちだ」と批判し、会見で会見本来の意味を問う望月記者に「あなたに答える必要はありません」と言い放つ菅長官の映像も織り込んだ。

 もう一つの問い掛けは、マスコミは今、政治権力チェックという本来の機能を十分に果たせているのかという点。新聞労連などマスコミ関係者が首相官邸前で開いた抗議集会の映像から聞こえてくるのは、「特定記者の排除」への抗議と同時に、「どうして望月記者の後に一緒になって質問がないのか。(略)問われているのは、実は私たち記者、ジャーナリストなんじゃないか」という〝自問〟だった。

 別の場面で、日本外国特派員協会の外国人記者は「今の日本のメディアは誠実さにおいてかなり後退した」と、取材の望月記者に言う。
 
 ★「組織の人間」になってしまっていないか

 森監督は所定の手続きを踏んで官邸会見取材を申し込むが断られる。

 「(菅官房長官が会見で望月さんに向かって)『あなたに答える必要はない』と言う。完全なる拒絶であって、権力側が自分たちの力を露骨に見せつけて、隠しもしない。そういう場合は、他のメディアが批判すべきだが、しない。だから、政治権力は増長する。個の感覚を保持できている記者なら何らかの意見を言うだろう。多くの記者が『組織の人間』になってしまっているのではないか」。森監督はそう見る。

 米国第3代大統領、トマス・ジェファーソンは、こんな名言を残している。〈新聞のない政府か、政府のない新聞か。いずれかを選べと言われたら、ためらわず後者を選ぶ〉。森監督はその名言を引用しつつ、警鐘を鳴らした。

 「ジャーナリズムは民主主義の根幹。それが機能しなければ民主主義は瓦解(がかい)する。この国のジャーナリズムが危機にひんしているのなら、この国の政治、社会もあぶない」。それは、マスコミへの熱い激励に違いない。(吉田昭一郎)

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