聞き書き「一歩も退かんど」(19) 下着の中に録音機が 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 私が入院した翌日の2003年4月18日、志布志事件で、私に代わる新たなターゲットが生まれてしまいました。鹿児島県志布志市の懐(ふところ)集落に住む藤元いち子さん。この日、私に「踏み字」を強いたH警部補が懐集落に現れ、いち子さんに任意同行を求めたのです。

 ここで事件の舞台になった懐集落のことを話しておきます。集落は志布志の中心部から北へ車で約40分の山間部。車1台が通るのがやっとの曲がりくねった山道が延々と続きます。こんな言い方は申し訳ないのですが、志布志でもかなりのへき地です。

 当時、7世帯20人がほそぼそと農業や林業を営んでいました。こんな山奥の小さな集落で集中的に選挙買収を図るなんて、常識的にあり得ないことですが、鹿児島県警はそんな構図を描いたのです。懐の人たちは皆、純朴なので、警察署で脅しあげればいいように供述が取れる-。そのくらいの考えだったのではないでしょうか。

 私は当時、いち子さんと面識はありませんでしたが、夫の安義さんは中学校の一つ上の先輩で、存じていました。いつもにこにこして人間の良い方です。

 いち子さんは、妻のいとこで県議に初当選した中山信一の会社に勤め、焼酎用イモの収穫作業をしていました。私がビールや焼酎の供与を全く認めずに入院し捜査が行き詰まったので、いち子さんに目を付けたのだろうと思います。

 いち子さんへのH警部補の取り調べは、私と同様に執拗(しつよう)でした。「中山のため焼酎と金を配っただろう」「認めろ」の繰り返し。翌19日、根負けして焼酎と現金を配ったことを認めたいち子さんですが、20日に撤回。するとH警部補は激高して再び認めさせた上、信じられない行動に出ます。

 まずは取調室からいち子さんの姉に携帯電話をかけるように仕向け、容疑事実の口裏合わせをさせました。いち子さんが「私から焼酎と現金をもらったことにして」と頼むと、姉は戸惑い、拒絶したそうです。

 それだけでも許されないことですが、H警部補はその会話を、補助官の女性巡査長にこっそり録音させていました。補助官はブラジャーの中にICレコーダーを忍ばせていたのです。この録音をH警部補は、上司のI警部と志布志署のK署長に聞かせました。

 これは全て後の公判で明らかになったことです。あまりの卑劣さに今もはらわたが煮えくりかえります。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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