糸島に「劇団公演中」の旅館? 大衆演劇支え、憩いの半世紀

西日本新聞 ふくおか都市圏版 竹森 太一

 9月に取材拠点がある糸島市へ“移住”した。それから管内各地をくまなく巡っている。市中心部から国道202号を西へ向かっていると、海沿いの旅館に「只今(たたいま) 劇団公演中」と控えめなのぼり旗が目に入った。これが、知人が言っていた「おもしろい旅館」のことか。早速、話を聞いてみることにした。

 県境も近い同市二丈鹿家。道路海側に立つのが「初潮旅館」。玄関をくぐって中に入ると昭和の香り漂う空間が広がる。玄界灘に沈む夕日を堪能できるこの旅館は1956年の開業。「おしゃれなカフェや評判の産直市場とは趣を異にする、糸島の知る人ぞ知る人気スポット」(観光関係者)と後に聞いたが、記者同様、素通りしてきた人は少なくないだろう。

 さて、劇団公演とは。

 女将(おかみ)に就いて4年目という宇治川由美さん(45)が説明してくれた。「芸能好きだった先々代の創業者が10年ほどたってから、大衆演劇を招くようになったんです」。春(2~6月)と秋(9~11月)には大広間が“劇場”となり「旅一座」が寝泊まりしながら芝居と舞踊ショーを披露。約2時間の観劇と大浴場が1500円で楽しめるという。

 常連客もいた。数十年来通い続けているという佐賀県唐津市の坂口房江さん(77)は公演期間中、友人を誘って何度も足を運ぶ。ちょっと、ぜいたくをしたい時は、旅館自慢の会席料理(3850円から、観劇・入浴料込み)に舌鼓。侠客(きょうかく)物のヤマ場では大声を飛ばして応援し、笑いを誘う場面では遠慮なく破顔する。

 「通い続けるのはどうして?」-。坂口さんに尋ねると「役者とも旅館の人とも距離感が近い。憩いの場で毎日来てよかごとある」。ゆったりした家族的な雰囲気がお気に入りとか。

 来館者の多くは高齢者グループ。福岡都市圏から交通の便が決してよいとはいえないが、小旅行気分で気軽に観劇も楽しめる“付加価値”が、口コミで評価されている。全国的に劇場が減る中「大衆演劇は昔ながらの文化。お芝居だけを見にくる人も増やしたい」と女将。ツイッターでの発信にも力を入れ始めている。

 今月29日までは、家族5人で舞台に立つ「劇団しらさぎ」が公演中。10年連続の来演という。客席はあまつ殿下さん(20)、祐作さん(18)、さくらさん(16)の3きょうだいの熱演を温かく見守る。役者にとっても憩いの宿なのかもしれない。3人は「大衆演劇を知らない人は多い。1人でも多くのファンを増やしたい」という。半世紀にわたり、大衆演劇の舞台としてファンと役者に愛されてきた旅館。応援したくなった。初潮旅館=(0120)824015。

 (竹森太一)

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