「親の貯金は親のために」叶わず 望む老後は後見人次第

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

成年後見はいま 開始20年(1)

 認知症や知的、精神障害で判断能力が低下した人の生活と財産を、親族や法律の専門家が守る「成年後見制度」の利用が伸び悩んでいる。認知症患者が2025年に約700万人に達すると国が推計する中、利用者は約21万8千人(18年末)にとどまる。預貯金を他人に管理されることなどが敬遠される要因とみられる。制度開始から来年で20年。弱い立場の人を、社会が後ろ盾となって支える成年後見の現状を報告する。

 紙にガソリン代の領収書を数十枚貼り、車の走行距離を1キロ単位で書く。「母のためにかかった交通費を請求するんです。やっと受け取れるようになった」。九州の60代女性は苦笑した。

 母は80代で施設暮らし。認知症のため遺産分割協議の手続きができず、制度を利用することにした。

 女性は当初、知人の専門家に後見人になってもらうことを望んだ。しかし、家庭裁判所が選んだのは見ず知らずの司法書士。母の通帳は管理され、「本人のため」と思った支出が認められなくなった。

 母の自宅は空き家になったものの、施設に退所を求められたときに備え、管理するよう家裁に言われた。身内の法事も定期的に行っている。それでも、故障した家電の買い替えは「本人が住んでいない」と司法書士に拒まれた。

 家の風通しや通水、庭や田畑の草刈り。母との面会、施設との打ち合わせ。車で週の半分ほど通っても、給油代を通帳から出してもらうのは渋られた。

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 「母のために本人のお金を使うのに、なんで他人の許可がいるんですかね」

 相続手続きが終了後、司法書士に辞任を求め、自身が後見人になった。家裁と直接話すと、ガソリン代の請求は認められ、除草は外注を勧められた。母の預金を充てるよう言われた。

 司法書士に支払った報酬は100万円近く。女性は無報酬で後見業務をしており、「最初から私が後見人になっていれば」と憤る。

 家族の預金が第三者の手元に置かれる。使い道を巡り、後見人になった専門家と意見が食い違う-。女性の例は、市民が利用をためらう現状を表している。

 最高裁判所によると、制度の利用者は18年末、記録が残る10年末から約1・5倍に増えた。ただ、認知症患者の増加を考えると、まだ少ないといえる。

 理由の一つは、後見人らの多くが法律の専門家から選ばれること。制度の開始当初は約9割が親族から選ばれていたが、財産の着服が相次いだこともあり、近年は親族以外が7割以上を占める。

 専門家の後見人が増えても不正はなお続いている。18年は250件、被害総額は約11億円。身内の事情に他人が入り込むことの戸惑いと、信頼を揺るがす不正。専門家の後見人を変更するのは難しく、利用者が亡くなるまで報酬を支払う必要もある。多くの理由が制度普及の壁になっている。

 最高裁は今年3月、後見人を親族から選ぶことが望ましいという考えを示した。交代も柔軟に対応するという。本人の利益を守るとともに、利用促進の狙いもあるようだ。

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 一方、本人の財産を適正な人が管理する制度のおかげで救われた人もいる。

 福岡県内の女性(76)は数年前、所持金が数百円しかなかった。子ども一家と同居し、月十数万円の年金は生活費に奪われていた。

 ある時、家族を暴行して入院し、心の病や認知症と診断された。退院時、子どもに支援を拒まれ、行き先がなく制度を利用。男性司法書士(41)が財産を調べ、月の収支計画を立て、年金を本人だけに使うことを家族に納得してもらった。

 女性は今、高齢者施設で暮らす。「先生がね、ちゃんとしてくれるけん、よかですよ」。司法書士は「年金が食い物にされていた。家計を明確に分けられたのがよかった」と振り返る。

 制度に救われる人と、不満を募らせる人。本人保護の目的は同じでも、家裁や後見人の実務次第で、本人や家族の生活が左右される。そんな傾向が続いている。

 (編集委員・河野賢治)

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 【ワードBOX】成年後見制度
 介護保険制度と同じ2000年にスタート。判断能力が衰えて介護事業者と契約できない人を支える目的もあって導入され、介護保険とともに高齢者らを守る「車の両輪」と位置付けされる。利用は、家庭裁判所に申し立て、家裁から選ばれた弁護士や司法書士、社会福祉士、親族などが本人の預貯金の管理や福祉サービス契約などを担う。判断能力が落ちた人が利用する「法定後見」と、衰える前に支援内容などを決めておく「任意後見」に大別される。

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