豪雨 宅地崩落リスク 大規模盛土造成地の対策課題 住民周知へマップ作り進む

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

 毎年のように豪雨が相次ぎ、郊外を中心に広がる造成地で宅地崩落のリスクが高まっている。2016年の熊本地震や昨年の北海道胆振(いぶり)東部地震など、地震に伴う地盤液状化による被災事例が知られるが、専門家からは「大雨が、さらにリスクを増大させている」との指摘が出ている。

 ◆引き金は地震だが

 熊本地震で2度にわたる最大震度7の激しい揺れに襲われた熊本県。益城町や西原村、熊本市などを中心に宅地の地すべりや擁壁の崩壊、陥没や液状化などが約1万5千カ所を数えた。

 その復旧の際、約70地区で「宅地耐震化推進事業」が活用された。国が06年から、「大規模盛土(もりど)造成地」の安全確保策として取り組んでいる施策の一つだ。

 大規模盛土造成地とは、高度経済成長期に入った1960~70年代以降、国土を切り開いて開発が進められた、主に宅地を指す。かつてよく耳にした「ニュータウン」だ。団塊の世代を対象にした持ち家政策を背景に、全国各地に夢や希望の物語を体現する新興住宅地が誕生した。

 そんな幸福のイメージを打ち砕いたのが、阪神大震災(95年)であり、新潟県中越地震(2004年)だった。住宅が全半壊するなど家屋被害が耳目を集めたが、その足元、宅地の崩落も見過ごせない現象だった。建物は原形をとどめていても、宅地が液状化や滑動崩落と呼ばれる地すべりで崩れた被災例が続発した。

 国が06年から対策強化に乗り出したのは、それを受けた対応だった。1961年に制定された宅地造成等規制法(宅造法)が改正されて地震対策に力点が置かれた。ただ、この宅造法自体、大雨による被害を機に制定された経緯があり、入り口は必ずしも震災対策ではなかったのだ。

 ◆地下の水圧が影響

 制定のきっかけは61年に起きた「昭和36年梅雨前線豪雨」だ。

 この年、6月下旬に梅雨前線が活発化。台風の北上で刺激され、7月上旬まで九州を含め大雨が降り、死者・行方不明は357人、全半壊家屋約3700戸を数えた。前線と台風の相乗作用は、今年8月、九州北部も襲われた豪雨との類似性を連想させる。

 この昭和36年豪雨では、神戸市や横浜市で宅地造成地の崩落が続発。事態を重くみた国が安全確保のため、開発を巡る技術基準を定めるなどしたのが宅造法制定の要点だった。

 こうした経緯も踏まえ、「造成地の崩落リスクに、豪雨が及ぼす影響は軽視できない」と指摘するのが、九州大大学院の笠間清伸准教授(防災地盤工学)だ。造成地の強度は、地下水の水圧に大きく影響されるという。

 造成地の多くで、丘陵や山間の谷を埋め立てる「谷埋め」型と、斜面に土を盛る「腹付け」型の工法が取られている。こうした盛り土部分には、周囲に降った雨も浸透して集まった地下水が下部の地山との間に蓄えられ、盛り土内の水圧が上昇し、液状化、流動化しやすい状態に置かれる。

 笠間准教授は「豪雨の頻度が増せば、想定より規模の小さめの地震でも、崩落リスクは高まると考えるべきだ」と話す。盛土造成地を崩落させる外力は地震が主眼だが、豪雨だけであっても「雨の降り方次第で起こり得ると考えておいた方がいい」と注意を促す。

 実際、2017年10月には奈良県三郷町で、台風21号がもたらした大雨のため民家8棟の宅地の斜面擁壁が崩落し、住宅の基礎部がむき出しになった。今なお復旧の途上である。

 ◆対策強化されても

 もちろん、国も事態を座視しているわけではない。11年の東日本大震災でも造成地の崩落が多発。国土交通省は全国の自治体に、「谷埋め」型や「腹付け」型の宅地の位置を示した大規模盛土造成地マップ公表を促し、関係住民へのリスク周知に取り組んでいる。危険性が確認されれば、熊本で事後的に用いられた宅地耐震化推進事業で安全確保を図る体制も整えている。

 ただ、現状は、ようやく全国すべての市区町村で本年度中にマップ公表にたどり着けるめどが立った段階。しかも、マップで示された場所が本当に危険で対策が必要なのかどうか、確認する作業は来年度以降の取り組みとなる。

 「これまで何度か大雨に遭ったが、大丈夫だった」「確かに地震は多発しているけれど、自分の住む地域は…」-そう思いたい気持ちは、もっともだ。だが、これまでの常識は通用しない時代だと自覚したい。

 次回以降、マップをどう読むべきか、それを踏まえどんな対策をとるのか、報告していく。

 (編集委員・長谷川彰)

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