聞き書き「一歩も退かんど」(20) 懐の住民次々と逮捕 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 志布志事件の取り調べで血圧に異常を来した私は、病院の6人部屋に入院。ほどなく、院内に水色の土木作業服を着た男たちの姿が目立つのに気付きます。服は全然汚れてなくて妙な感じ。私がトイレに行けば、2人で入ってくる。廊下を通りすがりに病室をのぞく。勘のいい妻の順子が教えてくれました。「あなた、警察に見張られてるよ」。ご苦労なことです。

 その頃、志布志署では懐(ふところ)集落の藤元いち子さんがH警部補に責め立てられていました。2003年4月23日、朝一番で妻から携帯電話が。何事かと取ると、「いち子さんが逮捕されたよ。深夜のテレビニュースに出た」。ついにわなにかかる人が出たのです。

 いち子さんは22日夜、妻のいとこ、中山信一派の運動員として、2人に現金と焼酎を配った公選法違反容疑(買収)で逮捕されました。この件は結局、起訴に至りませんでしたが、いち子さんはさらに2度、逮捕されます。中山の会社に勤めてはいましたが、完全なスケープゴートです。

 これを皮切りに、鹿児島県警は懐集落の住人に続々と任意同行をかけました。I警部らが描く事件の構図がここから大きく変わっていくのです。最終的には、同年2月上旬から3月下旬までに計4回、いち子さん宅で中山派の買収会合が開かれ、住民に現金計191万円が配られた、という荒唐無稽な内容に膨らみます。さらにはこの会合の司会は私が務めたというのですから、あぜんとします。

 逮捕されたいち子さんは留置場で自分の頭を壁に激しくぶつけ、自殺を図ったことも。後日、本人に聞くと、「H警部補が怒鳴るのでずっと怖かった。家に帰りたいのに帰れない。死んだほうがましと思ったけど死ねず、大きなこぶができただけ」と打ち明けました。痛ましい限りです。

 体調が回復した私は30日に退院し、事件の推移に固唾(かたず)をのんでいました。5月13日、同法違反(買収)容疑でいち子さんが再逮捕、同法違反(被買収)容疑で山下邦雄さん、藤山忠(すなお)さん、永山トメ子さん、山中鶴雄さん、懐俊裕さんが逮捕され、新聞やテレビも大きく報じました。18日にはいち子さんの夫の安義さんも同法違反(買収)容疑で逮捕されます。

 「この先どうなるのか。信ちゃん(中山)も逮捕されるんじゃ」と私たち夫婦の心配は募るばかり。そんな中、私のホテルに変わった宿泊客が訪れました。 (聞き手 鶴丸哲雄)

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ