実体験バリアフリーの一歩 心理的負担にまず配慮を 福岡市・天神で車いす街歩き

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 40~50センチ、目線が下がっただけなのに。腰掛けて、後ろから押された途端、見慣れた光景が一変した。誰もが使いやすいユニバーサルデザインの街づくりを目指す福岡市などが企画した車いすの体験会「天神まち歩き」に参加した。障害者やお年寄りへの配慮を考えるとき、耳を傾け、頭で想像するだけでは到底、追い付かない。実体験こそ、バリアフリーの一歩であると思い知らされた。

 左右のブレーキをしっかり掛ける。巻き込まれないよう、両足はフットサポート(足置き)にきちんと乗せる。土曜日の午前、雨上がりの天神地下街。「ちょっとでも傾斜があると危険。この2点に気をつければ、車いすの事故の半数は防げるのでは」。指導してくれたNPO法人「あすも特注旅行班」代表、大橋日出男さん(45)の言葉と手順を頭の中で繰り返し、乗り込んだ。介助者から押してもらった瞬間、腰が宙に浮いたような感覚。思わず、肘掛けを握り締めた。

 ■目線下がり恐怖感

 体験会は、市や同法人が昨年完成させた市内の観光地のバリアフリー情報を紹介する「車いす利用者お出かけマップ」をPRする目的で開かれ、今年で3回目。約10人が参加し、2人一組で車いすを押し合い、天神エリアを回った。

 地下街の人通りは、平日夕方よりかなり少ない。それでも座ったまま見上げれば、小柄な女性も大柄に映る。横から人が突然現れる通路の交差点では、いつも以上に身構える。ガタガタした石畳の振動より、人の動きが気になってしょうがない。「押す側のスピード感や距離感で進むので恐怖感がある」「目線の高さで世界が変わる」。参加した男性たちも目を丸くする。

 「介助側が、前に進みます、前輪が上がりますよ、など、しっかり声掛けすることが安心感につながる」と大橋さん。移動を他人の手に委ねること自体、心理的に大きな負担であることがまず、身に染みた。

 ■知恵と工夫道半ば

 介護が必要な人に看護師らが付き添い、旅行をサポートする事業を手掛ける同法人。大橋さんは各地のバリアフリー事情に詳しい。

 天神南駅付近の点字ブロックは車いすがスムーズに横切れるよう、切れ目が入っていること▽車いすの人でも買いやすいよう、券売機の下に空間を確保していること-などから「全国の鉄道の中で、バリアフリーは市営地下鉄が日本一では」と指摘する。「一度に、ではなく、少しずつマイナーチェンジを繰り返していることがすばらしい」

 一方、店舗によっては入り口が狭かったり、スロープはあっても自動ドアがなかったり。通路の幅は十分でも商品や客の荷物でふさがっている所も。「バリアーの多くは人が作り出すもの」(大橋さん)なのだ。

 この日、日常的な車いす利用者として唯一、参加していたのが西川翔平さん(33)。先天性の障害で「小1から25年乗っていて、一人で自由に出掛けています」。介助者が居ても難しい、百貨店入り口の重いドアも、両腕と体幹の力で軽々と開けて通るなど、参加者を感心させた。

 「自分なりの移動方法やルートが既に固まってしまっているので、今まで知らなかった点字ブロックの切れ目や車いす用トイレの場所も新たに分かり、勉強になった」と西川さん。ハード面での課題は、まだ日常的に感じる。「決して障害者だけのためではなく、ベビーカーや高齢者など、あらゆる人が使いやすくするための工夫と知恵が求められていることを、誰もが意識できればいいですよね」

 ■思いはせ自分事に

 地下街周辺を回った後はビルの一室で意見交換。参加者はみな、せきを切ったように話し出した。「イヤホンをしている人、歩きスマホは本当に怖い」「通路で邪魔にならないよう今後は自分も気をつけたい」「車いすの介助は雨が降ったらどうする?」「車いすはいくらぐらい? レンタルはある?」…。疑問や関心は、バリアフリーのあり方から、車いすの人の暮らしぶりまで広がっていった。

 共有体験を機に、当事者に思いをはせ、自分事としてとらえ、寄り添う意味を考えていく。「心や意識のバリアフリーにつながる貴重な機会」(市地域福祉課)として、市は今後も毎年、体験会を開いていくつもりだ。 (編集委員・三宅大介)

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