「ビルマ商人の日本訪問記」を読み解く ビルマ戦記を追う<35>

西日本新聞 文化面

 著者のウ・フラ氏は一九三六年に日本を訪問し、二カ月滞在している。その旅日記はラングーン(ヤンゴン)の新聞社へ寄稿され、一九三九年に書籍化された。本書はその翻訳である。

 訳者の土橋泰子氏は、ビルマ留学経験を持ち、さらには外務省アジア局南西アジア課ビルマ班勤務の経験を持ち、本書以外にも数々の訳書等を手がけている。とりわけ、ご自身の体験を交えてビルマを解説した「ビルマ万華鏡」はその分かりやすさと充実度で他を圧倒する名著である。

 ありがたいことに土橋氏は「ビルマ商人の日本訪問記」においてもウ・フラ氏を詳しく紹介している。のちにアウン・サン将軍の下で活動し、戦後はビルマ再建計画にも参画した人物であるという。

 そんなウ・フラ氏の訪日目的は自身の事業拡大にあった。しかし本書の大半は、市井に関する記述に占められている。朝日新聞を訪問した場面では「ここの人達は会った時だけは適当に調子のよいことを言う」と書き、僧侶を見れば「ビルマの僧侶とは大違いである。俗人と同じよう」と書いている。日本の分析が目的のように思えるほどである。

 それは見習うべき日本人の美点などがまとめられていることからも、あながち間違いではないと思う。要約すると「清潔」「勤勉」「世帯の非分割」「高い志」「教育制度」などとなる。欠点としては「言葉の歯切れが悪い」「礼を言いすぎる」「話が回りくどい」などが挙げられている。これらを通して「改めるべき点を御賢察の上、それぞれ実行してもらいたい」とビルマの読者に求めているのだから、むしろ事業拡大というのは建前のようにすら感じられてならない。

 いずれにしても、西洋文化を取り入れた上で発展する当時の日本をウ・フラ氏がひとつの手本としていたのは確かである。そうしたビルマ人の意識は、のちの日本軍のビルマ進攻を容易ならしめた一因でもあるだろう。 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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