「よそ者」力(上) 地域おこし協力隊10年 なくてはならない存在

西日本新聞 九州+ 豊福 幸子

 秋風そよぐ10月下旬の昼下がり。熊本県高森町の第三セクター南阿蘇鉄道(南鉄)高森駅に到着したトロッコ列車を張りのある声が迎えた。「お土産に地酒の『れいざん』はいかがですか」

 地域おこし協力隊として町に赴任し、同駅を拠点に活動する田中亮介さん(46)=熊本市出身。売店で特産品をPRした。

 南阿蘇村で暮らす両親の面倒を見るため、昨春、26年勤めたJR九州を退社。熊本地震で被災し、部分運行が続く南鉄を支援する協力隊の募集を知り、昨年7月、「鉄道員」に戻った。

 地震後、16人いた社員は半減。運営経費は限られ、人手不足が続く。田中さんは切符販売や電話応対の駅業務をしつつ、鉄道復旧の工事現場を巡るツアーなどを企画。「観光客や地元の人が集まるコミュニティーの場となる駅、鉄道にしたい」と思いを巡らす。

    ∞    ∞

 昨年4月に着任した染田麻弓子さん(34)=宮崎県門川町出身=は大学卒業後、地元で情報番組制作や地域づくり活動に従事していた。鉄道は「ど素人」だったが、「復興支援と地域づくりの力になれれば」と手を挙げた。

 駅業務の傍ら、南鉄のパンフレットを作り、地元の小学生に南鉄の歴史などの授業をする。「自分たちの鉄道という意識を育て、長期的な乗車率向上につなげたい」と意欲的だ。

 復興を担う2人。南鉄の中川竜一総務課長は「地震後は営業活動などができなかった。経験豊かな2人はなくてはならない存在」。南鉄には南阿蘇村の2人を含め今年新たに3人の協力隊が加わり、2022年度の全線復旧を目指し、走り続ける。

    ∞    ∞

 「女山大根で奇跡を起こす」と記した名刺に、赤紫色の首が特徴の7~8キロはあろうかという大根を抱えた写真を載せる。佐賀県多久市の地域おこし協力隊、大屋謙太さん(24)=福岡市出身=は2年半前、大学卒業後に赴いた。

 担当は市西部、西多久町の活性化。女山大根はこの地に江戸時代から根付く。「地域の先人が残したものを活性化の象徴にしたい」と目を付けた。

 だが、大きさと重さから生産は重労働で、市場の流通にも乗りにくい。高齢化率40%超の地域は生産者が減り、伝統野菜をどう守っていくかが課題だった。

 大屋さんは生産組合の会議などで魅力をあらためて訴え、収穫体験や試食会を企画。販路拡大や加工品開発に奔走した。「彼が来てから生産農家が10戸増え、地域に活気が出た。私たちだけではできなかった」。女山大根を生産する舩山真由美さん(61)は、地域に溶け込んだ大屋さんに目を細める。

 本年度は大屋さんにとって協力隊最終年。女山大根のブランド化に向け、地域団体商標登録などを手掛ける。「今後も外からの視点で地域の魅力を伝え、人を呼び込みたい」。その視線は、多久市での起業を見据える。 (豊福幸子)

    ◆    ◆

 「よそ者」を地域に呼び込み、活性化に取り組む「地域おこし協力隊」は制度創設から10年の節目を迎えた。隊員は地域社会の新たな担い手として定着しつつある一方で、課題も浮かび上がる。現状と可能性を探った。

PR

九州ニュース アクセスランキング

PR

注目のテーマ