いじめ認定に「二重基準」 福岡の女性、退学届拒まれ苦悩

西日本新聞 社会面 四宮 淳平

 「いじめられたことを理由にした娘の退学届を高校に出したら、受け取りを拒否された」。福岡県在住の母親から、首をかしげる話が西日本新聞の「あなたの特命取材班」に寄せられた。いじめの定義が広がり本人の心情を重視して認定されるようになった中、退学届が受理されないのはなぜだろう。取材すると、いじめを認める「二つの基準」と、解決に導く難しさが浮かんできた。

 悠花さん(17)=仮名=が県南部の県立高に入学したのは2017年春。順調だった学校生活が一変したのは同年10月、級友との何げない会話だったという。

 「テストの結果、どうだった?」。成績が良かったという悠花さんが声を掛けたところ、級友Aさんは「察して」。相手を傷つけてしまったと不安に陥った悠花さんは、教室にいるのも苦痛になってしまった。

 悠花さんが保健室にいた時、Aさんと級友Bさんが昼食に誘ってくれたが、Bさんはずっと黙ったまま。別の日、級友たちと食事している際にBさんがお菓子を配ったが、悠花さんを含む数人はもらえなかった。

 悠花さんは「いじめられた」と感じ、母親が高校に連絡した。高校はBさんに事情を聴き「悪気はなかった」と確認。悠花さんの心情を考え、保健室と食事時の2件を「いじめ」と認定した。

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 悠花さんは不登校になり、級友との関係も会員制交流サイト(SNS)でのやりとりでこじれた。11月ごろ、悠花さん側はいじめが理由と書いた退学届を提出しようとした際、高校に「退学の理由にはならない」と拒否された。複数回やりとりがあり、悠花さん側が「トラブルのため」と書き直し、高校は12月に受理した。

 母親は「同じ高校に通っていた兄への影響も考えた。娘は心療内科に通院していたし、早く気持ちを切り替えてほしかった」と、書き直した理由を振り返る。

 一方の高校。校長と教頭は「いじめられて退学という言葉の印象と、事実は異なる」と判断したという。県教育委員会高校教育課は説明した。「学校ではいじめでも、社会通念上のいじめではなかったから」

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 どういうことなのか。

 文部科学省は、いじめ被害者が命を絶つ事態が起きたことなどから、その定義を広げてきた。かつては「弱者に深刻な苦痛を一方的に与える攻撃」だったが、13年度には「一定の関係がある子どもに苦痛を与える行為」と規定された。

 定義を幅広くしたのは、深刻な事態に発展する前に対応するため。悠花さんの件もこの定義に沿い、いじめと認定された。一方、退学届となると、加害者の悪意や攻撃性も加味され、誰しもがいじめと考える事案でなければならないという。つまり、いじめの認定には事実上、基準が二つ存在していることになる。

 高校教育課は、安易に退学届を受理すると「いじめが客観的に確定し、損害賠償請求を起こされる可能性がある」と話した。

 全国の小中高などにおける18年度のいじめの認知件数は54万件を超え、過去最多だった。このうち高校は約1万8千件で、前年より3千件近く増加している。

 悠花さんは現在、地元で働く。いじめや退学を巡る苦悩は今もなお続いているという。悠花さんの母親は取材に繰り返した。「娘は退学したけど、その後に地域で会ったり、電話で話したりした先生から、『元気でやってますか』という一言があれば…」

 「一般論として退学届の書き直しはおかしい」。福岡大の勝山吉章教授(教育学)はそう指摘した上で「いじめは、子どもの思いを起点にした早期発見と対策が大切。先生も一生懸命対応したと思うが、子どもや保護者に伝わらなかったのではないか」。背景事情として「先生が多忙すぎ、生徒と向き合う余裕が失われている」と学校業務の問題も挙げた。 (四宮淳平)

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