聞き書き「一歩も退かんど」(21) 家宅捜索通帳も押収 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2003年6月3日。私の経営するビジネスホテルに鹿児島県の民放テレビ局から3人の宿泊予約が入りました。夜中にやって来たのは、男性2人、女性1人のテレビクルー。選挙違反事件の渦中にある県議の中山信一が、うちと縁戚関係にあるとは知らなかったのでしょうね。

 翌4日、3人は朝食も食べず、薄暗い中を慌ただしく出ていきます。妻の順子に「何かありそう。つけてみれば」と言われ、車で追いかけました。すると、一行は中山宅の手前の空き地に車を突っ込みます。私はそのまま車を進めると、大勢の捜査員が中山の家を取り巻いていました。慌てて妻に電話しました。「信ちゃんが逮捕される」

 中山と妻のシゲ子さんが公選法違反(買収)容疑で逮捕、6人が同法違反(被買収)容疑で再逮捕されました。現場にはほかのテレビ局や新聞のカメラマンも待ち受けていました。県警側が逮捕情報を流したのでしょう。まだ有罪と決まっていないのに、こんな犯人扱いが許されるのでしょうか。

 自宅に戻ると、案の定、うちにも捜査員15~16人が来ました。県警の顔見知りの捜査員が「幸夫ちゃんをいじめるとやなかよ。上からの命令やきな」と言って、家宅捜索の令状を見せました。私は「これ(選挙違反事件)はないことだ。後で大変なことになるよ」と告げ、書類にサインしました。

 捜索が始まると、捜査員は何でもかんでも段ボール箱に詰め込みます。ホテルの帳簿、通帳、住所録、レシートに妻の日記まで。ところが、私が10年間も務めてきた志布志署の「地域安全モニター」の書類や腕章、帽子には手を付けないのです。かちんときて、「これも持っていかんや」と皮肉を言うと、「いや、結構です」。勝手なものです。

 この後、困ったのがホテルの運転資金。通帳がなくて現金がおろせないのです。500万円の融資を頼みに懇意の銀行に行ったら、けんもほろろで貸してくれません。この銀行の店舗にも刑事が来て、銀行も迷惑していたのです。それで、鹿屋の銀行に出向き窮状を打ち明けると、親切な支店長さんが貸してくれました。あれがなかったら、ビジネスホテル枇榔(びろう)は倒産していたかもしれません。

 会社が回らないよう通帳類を持って行き、ありもしない容疑を「認めろ」と圧力をかける。兵糧攻めですね。これが警察のやり方だとつくづく思いました。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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