石木ダム、溝抱え「期限」 「豪雨対策に」「改修で十分」 長崎・川棚町

西日本新聞 社会面 岡部 由佳里

 長崎県と同県佐世保市が同県川棚町で進める石木ダム事業は18日、立ち退きを拒む13世帯の宅地を含めた全ての事業予定地について県収用委員会が定めた明け渡し期限を迎える。県は19日以降、家屋撤去など行政代執行による強制収用が可能になる。国の事業採択から44年。全国で豪雨災害が続く中、県はダム下流の治水を「大義名分」に必要性を唱えるが、反対派は河川改修で十分と主張。両者の溝は埋まらぬまま、新たな局面を迎えようとしている。

 「強制収用は最後の最後の手段と考えている。その前にご理解いただける機会があれば、努力を重ねていきたい」。同県の中村法道知事は10月の定例記者会見で行政代執行の判断時期を問われ、こうかわした。

 1975年度に国が採択した石木ダム事業。知事は当時の故久保勘一氏から数えて中村氏で4人目。これまで、下流の川棚川の拡幅や事業に同意した54世帯の移転、県道の付け替え工事などが行われ、大きな事業はダム本体工事を残すのみとなった。

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 県は事業に前のめりだ。10月末に川棚町であった県内の推進派議員の会合で、県河川課長が最近の豪雨災害を念頭に「追い風だ」と発言。記者会見で撤回したが「謝罪会見ではない」と事業推進の姿勢は崩さなかった。

 県が事業の正当性の根拠とするのが、一帯が100年に1度の豪雨に見舞われた場合の被害抑止だ。川棚川下流域の流水量は、最大で毎秒1400トンとなり堤防があふれる恐れが高まるが、ダムと河川改修を組み合わせれば安全とされる同1130トンまで下げられる、と試算する。

 被害発生を想定した流量は、一帯で過去経験がない400ミリ(24時間雨量)で試算した。長崎市を襲った長崎大水害(1982年)が729ミリ、今年9月に対馬では500ミリを記録したことも踏まえ、県は「今後、十分に想定される雨量」としている。

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 反対派は、県の河川改修が全て終われば従来の大雨で堤防があふれるような洪水はないと主張。県に計画見直しを訴える。

 事業に暗い影を落とすのが、知事就任直後の故高田勇氏が82年、機動隊を導入して断行した強制測量だ。反対住民たちの県への不信が高まり、その記憶は今も根深く沈殿している。

 2007年度以降、国土交通省関連事業での代執行は全国で14件あるが、住民が暮らす民家での代執行は1件のみという。中村知事も立ち退き強制について周囲に「誰だってやりたくない」と漏らす。

 ダムによる治水を唱える県、ダムは不要と訴える反対住民。双方の主張は平行線のままで、県が代執行に踏み切れば衝突は必至だ。

 こうした中、県は9月末、ダムの完成予定を22年度から25年度に3年遅らせることを決定。時間的な猶予を得たことで、反対住民らと交渉を進めていく考えだ。 (岡部由佳里)

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