聞き書き「一歩も退かんど」(22) 残念、犯人扱いの報道 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 志布志事件は、ついに「本丸」に入りました。2003年6月4日、鹿児島県議に初当選したばかりの中山信一が逮捕されたのです。鹿児島で現職県議の逮捕は24年ぶりとあって、新聞やテレビは大きく報じました。本人が関与を否定していることに触れた社もありましたが、どこもほぼ犯人扱いの報道でした。

 西日本新聞も鹿児島県版に「裏切られた気持ちだ」「有権者として恥ずかしい」といった地元関係者の談話を掲載しました。残念です。私自身、冤罪(えんざい)被害者になって分かったのですが、報道を目にした人の多くは「あの人は犯人、悪い人」と決めつけてしまいます。そうした世間の目は冤罪が晴れた後もおいそれとは変わりません。報道に携わる方々は、特に否認事案ではより慎重に報道するよう心からお願いします。

 ここで、中山のことをお話ししておきますね。彼は妻の順子のいとこで、私と同じたたき上げの苦労人です。私は彼を「信ちゃん」と呼び、親しく親戚付き合いをしてきました。

 中山は東京でダンプの運転手として働き、農業を継いだ後、芋焼酎会社の経営に乗り出しました。サツマイモの栽培から焼酎への加工、販売までの一貫経営を目指したのです。当然、既存の業者や団体から反発や嫌がらせを受けましたが、めげずに頑張り、旧志布志町議にまでなりました。

 そんな中山が旧曽於郡区から県議選に立候補すると知ったのは、03年の1月3日。中山の妻シゲ子さんから順子に「夫が県議選に出ると言っている。止めてほしい」と、相談の電話があったのです。

 2日後、夫婦の間で話がついたのでしょう。私の家に2人で来て、中山が「出るから加勢してほしい」。私は「身内だから応援する。頑張ろう」と応じ、「ただし、自分は警察の地域安全モニターをしているので、違反だけは絶対だめだよ」とくぎを刺しました。

 中山は後援会事務所を私のホテルのすぐ近くに開設。中山夫妻と長男夫妻が1カ月近く私のホテルに泊まり込み、活動に没頭しました。私は後援会で裏方の元締のような役回り。事務所では、酒は一切出しませんでした。田舎の選挙ですので、有権者側から酒食の提供を無心されたことも4回ありましたが、全てきっぱり断りました。

 それなのに、でっちあげの選挙違反の標的とされた…。たたき上げの2人の悔しさを察してください。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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