伝統の染め物文化を再興 体験の場設け広くPRへ 国内唯一の「甘木絞り」職人 西村政俊さん

西日本新聞 ふくおか都市圏版 押川 知美

 作業場は2階建てのアパートの一室。5畳ほどの2部屋を使ったスタジオで、デザインから絞り、染色、裁断、ミシン作業まで黙々と1人でこなす。孤独で地道な作業だ。「濃淡に同じものは一つもなく、そこに温かみを感じる。伝統文化が自分の世代で途絶えるのは寂しいですから」。完成したワンピースの模様を確かめるように、西村政俊さん(32)が優しくなでた。

 福岡県朝倉市(旧甘木市)の伝統工芸である絞り染め「甘木絞り」を再興するため2017年4月にオリジナルブランドを立ち上げた。名前は「hinome~日ノ目(ひのめ)~」。一時は廃れた甘木絞りが再び“日の目”を見てほしいとの願いを込めた。

 同市で生まれ育った西村さん。専門学校でファッションを学び、県外のアパレル店や縫製工場で経験を積んだ中で「古くから伝わる伝統品にこそ、長年の知恵や技術が詰まっている」と感じた。15年に福岡に戻り、伝統工芸品「久留米絣(がすり)」のメーカーで勤務。そこで、かつては朝倉市にも独自の染め物文化「甘木絞り」があったことを知った。

 甘木絞りは、甘木地域で江戸時代末期から続くとされる藍染め。昭和初期まで盛んに作られたが、戦時中に木綿が入手しづらくなり生産が途絶えた。その後、地元の保存会が技法を復活させ継承してきたが、なりわいにする職人はいなくなっていた。

 絞り染めの多くが抽象的な模様だが、甘木絞りは「花や城などをモチーフとするのが特徴。その分手間が掛かり、繊細な仕上がりになる」と西村さん。デザインや型紙があっても完成までに1週間ほどを要する。保存会から指導を受けて技法を学び、“国内唯一の”甘木絞り職人としてブランドを立ち上げた。「地元の伝統文化を守ろう」と。

 そう意気込んでからわずか3カ月後。想像を絶する光景が目の前に広がった。17年7月の九州豪雨は同市に甚大な被害を与えた。実家やスタジオは被害を免れたものの、氾濫する川や流される家々、土砂に埋まった道路など、懐かしんだ古里の光景は一変した。被災地のために友人らと甘木絞りのチャリティーTシャツを作製。売上金50万円以上を同市のボランティア団体に寄付した。

 豪雨から2年余り。「地元だけでなく県内外の人に知ってほしい」。来年新設するスタジオには、観光客の絞り染め体験スペースも設ける予定だ。「時間をかけた分だけ、味わいが出る。受け継がれてきたぬくもりを、次世代へ」。今日も黙々と作業を続ける。

 17日まで同市牛鶴の「ギャラリーcobaco(コバコ)」で展示即売会を行う。日の目スタジオ=050(5241)8085。 (押川知美)

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