「イラワジの誓い」を読み解く ビルマ戦記を追う<42>

西日本新聞 文化面

 本書も、戦記に興味のない方でも読みやすい一冊だろう。著者の八江正吉氏は第十八師団に属していた騎兵出身の将校である。その顔は広く、私の所有する復刊版には伊藤圭一氏、野呂邦暢氏、丸山豊氏、さらには門司平和パゴダのウケミンダ大僧正などの著名人がそれぞれ文を寄せている。門司のパゴダについてはテレビでも紹介されたことがあるのでご存知の方は多いと思う。

 顔の広さは、むろん人望によるだろう。本書の柱も北ビルマでの勤務を通して知り合ったウラテンという方との友情にある。あとがきには火野葦平氏などから映画化の話もあったと書かれているのだが、実際、異国の友との絆には感動を覚えずにいられない。友情は戦後も続き、それが縁でウラテン氏の孫が日本人女性と結婚するに至っている。

 内容の主な舞台は北ビルマのバーモとミイトキーナである。

 ミイトキーナの勤務においてザウパンという住民の出てくることが興味深い。他でもない、「カチン族の首かご」でザォパンと記されている人物である。八江氏自身「カチン族の首かご」を読んだ上で本書を著している。第五十五師団のあとを継ぐ形で北ビルマに配置されたのが第十八師団だったのである。八江氏は情報主任将校を務めており、ザウパンは協力者であったという。諜報(ちょうほう)活動、民政、宣伝等の職務に責任を持つ立場にあった八江氏にとってザウパンは大きな存在だったろう。

 前述の通り、昭和十九年五月にミイトキーナは敵の来襲を受ける。険しい山系からじわじわと迫る敵を八江氏は諜報網等で察知していたが、これを防ぐだけの戦力がミイトキーナにはなかった。

 飛行場占領を経て敵が市街へ押し寄せてきたとき、逃げ惑う市民の中に八江氏はザウパンを見ている。ザウパンに関する記述はそれが最後である。

 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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