「世の中には2種類の」考

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 「世の中には2種類の人間がいる。それは○○する人と××する人だ」

 映画や小説、エッセーなどで時々こんな言い回しに出合う。「それは好物を最初に食べる人と最後に食べる人だ」「マニュアルを読む人と読まない人だ」。二分法での性格診断として納得することもある。

 映画の世界では「続・夕陽(ゆうひ)のガンマン」(1966年、セルジオ・レオーネ監督)のせりふが有名だ。

 映画のラスト近く、若きクリント・イーストウッド演じるガンマンが別のガンマンに銃を突きつけ、大金が埋めてある墓地の一角を掘らせながら言う。「世の中には2種類の人間がいる。弾丸の入った銃を持つやつと、穴を掘るやつだ」

 監督はよほど気に入ったのか、この映画で3回「世の中には2種類の-」の言い回しを登場させている。

   ◇    ◇

 ここからが本題である。

 私がつくづく、世の中には2種類の人間がいるなあ、と感じるのは、次のような分類パターンだ。

 【Aタイプ】自分が若い頃に苦労した理不尽で不合理な慣行を、「自分たちも我慢したから」という理由で、下の世代にそのまま押し付けようとする人間

 【Bタイプ】自分が若い頃に苦労した理不尽で不合理な慣行を、「自分も嫌だったから、下の世代にはやらせたくない」と考えて、変えようとする人間

 映画のように気の利いた言い回しになっていないのは申し訳ないが、この二分法に共感する読者は多いのではないか。具体的な上司や先輩の顔が浮かんだ人もいるだろう。会社組織だけでなく、体育会などの集団、親子や嫁しゅうとめの関係にも当てはまる。

 私の感覚では7対3ぐらいでAタイプの方が多い。「これっておかしいんじゃないですか」と下の世代から指摘され、理屈では答えられず精神論で抑え込もうとするのが特徴である。「俺たちの若い頃はなあ」と言いたがる人たちだ。

 本心は、現状を変えるため上と掛け合うのが嫌なだけだ。自分がやってきたことを否定されたと感じ、その反発も加わるのだろう。

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 「俺たちの若い頃は」で理不尽にフタをし続けていれば、時として取り返しのつかない結果を生む。

 2015年、電通の新入社員だった女性が長時間労働とパワハラで心身の健康を損ない自殺した。この事件は日本社会を揺るがした。上司はとてもさばききれない量の仕事を彼女に課した上に、違法な長時間労働を隠すため、会社にいた時間の一部を「社内飲食」とするよう指示していた。「俺の若い時は社内飲食にしてたぞ」。上司の発言を彼女は記録していた。

 この上司がAタイプではなくBタイプだったら、と悔やまずにはいられない。

 もし世の中のAタイプが全てBタイプに変われば-。少なくともパワハラ、過労死、違法な商慣行など、日本の組織にはびこる理不尽は半減するはずだ。

 同時に、自分自身の三十数年の会社人生で、何度「俺たちの若い頃は」という言葉を発したか、自省とともに数えてみる。「これっておかしいんじゃないですか」の問いに「俺もそう思ってたんだよ。よし、この際変えよう」と応じる人間でありたいと思う。いまさらながら、であっても。

 (特別論説委員)

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