人的被害のリスクは低くない 橋本 彰博氏

西日本新聞 オピニオン面

内水氾濫

 ここ数年、大雨による災害が毎年発生している。今年も佐賀県などで大きな損害をもたらした令和元年8月豪雨、東日本の広範囲にわたって甚大な被害を引き起こした令和元年台風19号と立て続けに大災害に見舞われた。いずれの災害でも、「内水氾濫」というキーワードを目にした人も多いと思われる。

 内水氾濫とは、非常に強く降った雨水を側溝や下水道で流しきれなくなったり、本川の水位が上昇して排水できなくなったりすることで、堤防の内側(人が住んでいる場所)の建物や土地・道路が水に漬かることをいう。内水氾濫は、周辺よりも標高が低くて水が集まりやすく排水条件の悪い地形のところで発生しやすく、以前は自然の遊水地であった場所が多い。こうした土地までが市街化され、道路や住宅に変わることで水害常襲地になっている。

 排水路や支川に集まった水は合流する本川に排水されるが、合流する本川の水位が支川よりも高くなった場合、支川の水位が上昇したり本川の水が支川に逆流したりして被害が拡大する。そのため合流部には水門があり、洪水時、本川の水位が支川よりも高くなると水門を閉鎖し、支川の水はポンプにより本川に排水される。しかし、ポンプの能力を超える水が流れてくると、排水しきれない水が溢(あふ)れて浸水被害が発生する。今年の佐賀県、昨年と本年2年連続して福岡県久留米市で発生した水害はこのケースである。

 内水氾濫では比較的ゆっくりと浸水する場合が多いため、人的被害のリスクは低いと見なされがちである。私たちが昨年久留米市で実施した調査では、浸水被害があった地域でも約7割の人が避難しておらず、その理由の大半が「大丈夫だと思っていたが気がつくと水位が上がっていた」というものであった。しかし、場所によっては数メートルの高さまで浸水する場合があるため、垂直避難では命に危険が及ぶ場合もある。また、2階に上がれば助かる場合でも1階が浸水することで冷蔵庫やタンス、畳などが浮かんで進路を阻み、逃げ遅れて命を落としたとみられるケースも多数報告されている。インフラ整備には時間がかかり限界もある。得られる防災情報を活用して自らのリスクを前もって知った上で安全を確保できるように、住民自身の意識を改革することが求められる。

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 橋本 彰博(はしもと・あきひろ)福岡大工学部准教授 1974年生まれ、福岡県筑後市出身。九州大大学院博士後期課程修了。博士(工学)。専門は水工学。現在は河川の気候変動適応策について研究している。

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