「ビルマの花」を読み解く ビルマ戦記を追う<47>

西日本新聞 文化面

 様々(さまざま)な戦記を紹介してきたが、自身の体験を残せない方もいることを我々(われわれ)は忘れてはならない。戦没者である。

 本書「ビルマの花」は副題を「戦場の父からの手紙」という。著者の福田恵子氏は戦時中は幼い子供だった。よって本随筆で取り上げるのは反則ということになる。しかし本書に載せられた戦場からの手紙は間違いなく戦下のビルマでしたためられたものであって、ならば火野葦平氏の手帳が収録された「インパール作戦従軍記」と同じ類型と言える。

 適切な表現ではなかろうが、本書の内容はドラマチックである。日本軍が撤退した直後のミイトキーナで日系米兵が葉書の束を入手し、それが縁で戦後に遺族との交流が始まる。そして、戦場から届いた手紙を手掛かりとして福田氏は父親の足跡を追う。

 軍事郵便は検閲されており、ビルマから届いた近況報告には当たり障りがない。パイナップル、野鶏、ホタルといった単語が並び、一方で病気等の犠牲者は稀であることが記されている。家族を心配させぬための基本を外していないわけである。そうした手紙にあってとりわけ胸を打つのが添えられているイラストの数々である。日本では見られない動植物や人々の様子が丁寧に描かれ、そのひとつひとつに幼い我が子への教導が滲(にじ)んでいる。

 戦没者の残したこうした文章等に接した人は、「存命であればあの戦争をどう振り返るだろうか」と少なからず思うだろう。

 元軍医の書いた戦記が多いことはすでに指摘したし、その理由も推測の形で述べたが、これを裏返して言えば、小学校しか出ていない兵隊や思い出すのもつらい体験をした兵隊が記録を残す確率は低いということになる。玉砕地となれば生存者そのものがほとんどいない。どのような立場であろうと体験を残してくれた方には感謝しかないが、我々戦後世代は戦記に伴うそうした偏りを念頭に置いておく必要がある。 (こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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