「ビルマ 遠い戦場」を読み解く ビルマ戦記を追う<49>

西日本新聞 文化面

「シッタン河脱出作戦」のルイス・アレン氏の著作だが、本書では著者名が「ルイ・アレン」と表記されている。

 個人によるビルマ戦総括の決定版と言っていい戦記である。上・中・下巻からなる大作で、マクロ視点で戦いの全容が描かれている。開戦前のビルマをめぐる関係各国の動きなどは大変に勉強になる。当時のビルマ首相ウ・ソーがロンドンからの帰途でハワイに立ち寄ったとき日本海軍の真珠湾攻撃を目撃したことなどが書かれている。緒戦におけるシッタン河の鉄橋爆破に関する論争に至っては日本側の戦記には絶対に出てこないもので、イギリスはイギリスであの戦争に禍根を残していることが知れる。

 戦場における性の問題にも本書は踏み込んでいる。日本では政治材料に成り果て、冷静な分析や考察がもはや難しい問題である。

 政治的なことが絡むと歴史は必ず冒涜(ぼうとく)され、アプローチする者は何かしらの妨害を受ける。したがって本随筆でも取り上げるつもりはなかった。しかしアレン氏は日英の分け隔てなくこの問題を掘り下げており、あくまで歴史に向き合っている。実に私は英軍側の性事情を本書で初めて知った。

 驚くべきことに、大戦中のインドにおけるイギリス人将兵の性病罹患(りかん)率は六パーセントを超えていたとある。インド人将兵よりも常に高かったとも記されている。陣中雑誌に掲載されたという詞の一節などは当時の兵士の性感覚をあからさまに表現している。

 ――プロームでもラングーンでも あの夢のようなマンダレーでも 途中の町で出会う美しい女たちを きっとお偉方が優先的に抱けるように してくれるだろうよ

 英軍では戦後もこの問題が続く。勝利は、兵士をいっそう奔放にしただろう。仏印へ行った部隊には小冊子が発行されたというのだが、そこには「買い物」に注意するよう書かれ「現地の女も良い掘り出し物ではない」などと付け加えられている。(こどころ・せいじ、作家)

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古処誠二(こどころ・せいじ) 1970年生まれ。高校卒業後、自衛隊勤務などを経て、2000年に「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞しデビュー。2千冊もの戦記を読み込み、戦後生まれながら個人の視点を重視したリアルな戦争を描く。インパール作戦前のビルマを舞台にした「いくさの底」で毎日出版文化賞と日本推理作家協会賞をダブル受賞。直木賞にも3度ノミネートされている。

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