官邸官僚 1強の礎 首相に忠誠、即断即決 安倍政権最長へ

西日本新聞 総合面 川口 安子 湯之前 八州

 歴代最長となる長期政権を実現した安倍晋三首相の政権運営は、首相への忠誠心が厚い「官邸官僚」と呼ばれる側近たちの存在を抜きに語れない。彼らは菅義偉官房長官らとともに政局や世論に目を光らせ、政策立案から選挙戦略まであらゆる局面を主導。その方針は「首相の意向」として発信され、迅速な意思決定につながっている。だが官邸官僚による側近政治は「異論封じ」や「忖度(そんたく)」といった弊害をもたらした。「桜を見る会」開催見送りのように、疑惑封じを狙って強引に幕引きを図る事例も後を絶たない。

 既定路線と思われた政策に、官邸官僚が「待った」をかけた。1日に発表された大学入試の英語民間検定試験導入延期は、だれがどう安倍政権の意思決定を担っているのかを示す象徴的な出来事だった。

 萩生田光一文部科学相の「身の丈」発言が飛び出したのは10月24日だった。受験の公平性への疑念が一気に広がったとはいえ、民間試験導入は政府の教育再生実行会議が2013年に提言し、文科省が粛々と準備してきた政策。首相官邸はそれまでほとんど関与していなかった。

 官邸官僚の動きは早かった。菅氏と歩調を合わせ、杉田和博官房副長官と今井尚哉首相補佐官が10月末、それぞれ個別に文科省幹部を呼び出した。文科省は「延期すれば民間試験の実施団体から損害賠償請求される」と抵抗した。

 3氏は「制度は穴が多すぎる」と一喝した。発言はインターネットで現役高校生らに拡散していた。「安倍政権を支える若い世代の支持が一気に離れかねない」。事態を収束させるため、文科省から政策判断の主導権を奪った。

 文教族議員だけでなく、岸田文雄政調会長ら与党幹部への「根回し」もない即断即決。首相は側近たちからの実施延期の進言を受け入れた。内閣支持率は横ばいを維持した。

   ◆    ◆

 「官邸官僚」は第2次安倍政権で生まれた言葉だ。出身省庁と縁を切り、首相への忠誠を誓った官邸スタッフを指す。ときに高圧的になる振る舞いへの皮肉も込められた呼び方で、政権内では結束力の強さと役割分担の絶妙さを自賛し「チーム安倍」と呼ぶことが多い。

 その中核を担うのが首相補佐官の今井氏。経済産業省出身で、第1次政権では首相秘書官だった。第2次政権では筆頭格の政務秘書官に就き、9月から補佐官を兼務する。「1億総活躍社会」などのスローガン政治を発案した。

 真骨頂は16年5月、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)での働きだった。世界経済が「リーマン・ショック前夜に似ている」とする資料を用意。首相はこれを各国首脳に説明した。世界経済の危機を理由に、消費税増税の再延期を掲げて夏の参院選に挑む戦略を演出した。

 外交・安全保障を担う国家安全保障局長の北村滋氏も重要な位置を占める。警察出身で、第1次政権では今井氏と同じく首相秘書官を務めた。第2次政権では内閣情報官を経て9月から現職。日朝首脳会談の実現に向け北朝鮮と水面下で接触しているとされ、その動きは外務省も知らされていない。

 官房副長官の杉田氏も警察出身だ。省庁の人事権を掌握し、官邸の力の源泉である内閣人事局の局長を兼務する。

   ◆    ◆

 政局観を研ぎ澄まし、第1次政権の具体的な失敗例を挙げて「状況が似ている。気を付けなければ」などと語り合うという官邸官僚たち。ただ、こうした側近政治は政権の都合が優先され、政策が独善的になったり、先送りされたりする危うさをはらむ。

 政府が7月に発表した韓国向け輸出規制強化は、今井氏が主導した。古巣の経産省に具体案を出させ、融和策を訴える外務省を退けた。首相は当時、「もう韓国に折れてはだめだ。どんなに強く出てもいい」と周囲に語り、今井氏の対韓強硬策に乗った。

 第2次政権は近く7年になるが、官邸が熱心でない財政健全化や社会保障改革は進んでいない。官邸官僚の一人は「官僚が指示待ちになり、主体的に仕事をしなくなった。自分たちが言うのも何だが、官邸主導が強まった弊害かもしれない」と話す。 (湯之前八州、川口安子)

PR

政治 アクセスランキング

PR

注目のテーマ