大イチョウ伐採も今は昔 成長したモミジ 新たな景観 油山観音

西日本新聞 ふくおか都市圏版

 各地から紅葉の便りが届き始めた。福岡市の南部、早良、城南、南各区にまたがる油山(標高597メートル)は福岡市中心部から最も近い紅葉スポットの一つ。紅葉の秘話ヒストリーを求めて、油山の歴史に深く関わる油山観音(城南区東油山)へ一足早い紅葉狩りに出かけた。

 油山の東側中腹にひっそりとたたずむ油山観音。山肌を伝う市街地の喧騒(けんそう)とは対照的に、こけむした石畳の参道や深い緑に抱かれた境内には森閑とした空気が漂う。11月中旬とあって、本格的な紅葉にはまだ早いが、ほんのりと赤く色づき始めたモミジが季節の移り変わりを告げていた。

 本堂前で会った近所の男性から興味ある話を聞いた。「平成の初めごろまで、本堂と並ぶ収蔵庫の隣に立派なイチョウの木があって、秋には見事に紅葉したのですが…」

 氏田宋貞住職(73)によると、大イチョウは高さ15メートル、胸高周囲2メートルで、樹齢は不明ながら福岡市指定の保存樹。福岡市街地からもイチョウの色づきが見えたとされる。巨木ゆえにだろうか、遮光や風通しが悪くなり、地中に張った木の根が建物を持ち上げ、屋根に降り積もった落ち葉から草が根を張り雨漏りを招いた。所蔵する仏像にカビが生えるなど影響が大きいとして、2001年2月に住職の判断で、大イチョウは伐採された。

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 油山観音は572年、インドから渡来した清賀上人(せいがしょうにん)が開山。山中に群生するツバキの実から精油し、油による照明の道を開いた。地名の由来だ。本堂に安置されるのは、地域の人たちから「油山の観音さま」と親しまれる国指定重要文化財の「木造聖観音坐像(しょうかんのんざぞう)」。南北朝時代の作で、高く結い上げた髪(=髻(もとどり))と穏やかで美しい顔立ちが印象的だ。観音さまはここで数奇な運命をたどる。

 油山観音はかつて広大な寺領を有し、九州の仏教文化の中心地だったが、戦国時代の兵火により焼失し、江戸時代に再建されるも、洪水や大火の被害を受けた。戦後は寺の運営難から仏像が一時質草になった。2009年には盗難事件に遭い、約2カ月後にやっと見つけ出されている。災難のたびに観音さまは助け出され難を逃れてきた。「人々の力強い信仰で守られてきた観音さまだけに、痛ましい姿を見るのは耐え難かった」と、住職は伐採当時の決断を振り返る。

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 大イチョウの伐採後、境内の日当たりが良くなりモミジはぐんと成長した。晩秋には真っ赤なモミジが人々の目を楽しませる。先の男性は「寺のことを考えると、当時の決断もやむを得なかったのだろう。ここに来ると不思議と気持ちが落ち着く。イチョウはなくなったけれどいい場所ですよ」とほほ笑んだ。

 油山観音の紅葉の見頃は今月下旬。観音さまを拝んだ後、在りし日の大イチョウを想像してみるのも一興かもしれない。 (田中仁美)

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 ▼メモ 2004年4月まで正覚寺と称していた油山観音には、本堂の木造聖観音坐像のほか、境内に新羅式石門や十六羅漢石像、昭和の国民的歌手・故美空ひばりさんを祭った「雲雀(ひばり)堂」がある。展望台からは福岡市街地が一望できる。

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